日本人はもっとディベートの力をつけるべき【スマート会議術第31回】

日本人はもっとディベートの力をつけるべき【スマート会議術第31回】allWebクリエイター塾代表 大本あかね 氏

デジタルマーケティングコンサルタントであり、『ノンデザイナーでもわかる UX+理論で作るWebデザイン』の著者で知られる大本あかね氏。世界の第一人者を招き、UX・UIデザインについて学ぶイベント「UX DAYS TOKYO」を年1回開催。そのほか、UX・UIに関するセミナー・ワークショップを月に数回開催している。

コンサルタントとして会議の場で意見を伝える立場から、会議が抱える課題やその解決方法について語ってもらった。

ノンデザイナーでもわかる UX+理論で作るWebデザイン
目次

会議に必要なのは共通認識とストーリー

――会議に最も必要とされることは何だと思いますか。
会議では、まず参加者に共通認識が必要だと思います。共通認識がないと、同じ言葉を発していても全然違うものを指していることが起きてしまう。
私がいまやろうとしていることの1つに、議論を可視化することを目的とした「グラフィックレコーディング」というイベントがあります。ビジュアルを見せていくことで、共通認識を持つ重要性を知ってもらうのが目的です。
そのためには会議でもプレゼンでも、まずストーリーがないと伝わらない。UXの中の手法でも使われている、「ストーリーテーリング」と言われるものです。
私がある本で読んだ例を挙げましょう。たとえば、こういうインタビューがあったとき、カメラの電池がなくなって新人に「電池がなくなったから、近くのコンビニで買ってきて」と頼みます。すると新人は、「そこのコンビニに電池が売っていなかったから」と言って、手ぶらで帰ってきた。そこのコンビニじゃなくても、違うところで買ってきてほしいですよね。これは受け取り方も悪いのですが、伝え方も悪いのです。では、どうしたら伝わるのかをストーリーにして、記憶に残らせる。そのためにどういう共通言語にしていくべきか。そんなことをテーマにイベントを開催したいと思っています。
もう1つ、人を動かすためには、「人を褒める」というのが私の持論です。「人を褒める」と言っても、単に褒めるということではなく、「人を褒める=よく見ている」ということ。その人のことを見ているから、それを具体的に褒めると、「この人、こんなに私のことを見てくれている」と思うじゃないですか。褒めてあげることによって、今度はその人が聞く耳を持つようになるんです。なので、褒めるということは、自分の話を聞いてほしいときにその人を褒めるようにする。いいところを見つけてあげるんです。
会議の内容も、その人が何を考えているのか、抽象的な言葉だとわかりにくいので、できるだけ具体的に落とし込むように気をつけています。
――共通認識を持っていても、偉い人が入ると、脱線することも多くありますが、脱線しないためのコツはありますか。
会議をするにあたっては、まず何のためにやるのか目的を握っておくことが重要だと思います。その問題をどう解決するのかを握っておく必要があります。
たとえば、「コンバージョンが上がらない」という課題があったときに、その課題がどの段階なのかを共通認識として明確にしておかないと、あとで鶴の一声でひっくり返ることが起きてしまう。理由があってこのUIにしたのに、目的の共通認識がないと、思いつきで「新しく変えたほうが斬新で良くない?」みたいなことを言われてしまう。
そもそもの問題とか「何をしたかったの?」という話が握られていないと、そういう話は結構起こり得ます。一番大切なことは、最初に目的を強く認識しておくことだと思っています。

時間を細かく区切ることで脱線を防ぐ

――会議と時間について工夫されていることはありますか。
会議のルールとして細かく時間を区切るということはしています。「この時間はこれだけ」というのを先に決めて、そこに余談が入る隙間をなくすということはしています。そうすると脱線したり、一人がずっとしゃべり続けたりすることも避けられますね。
ただ、脱線するときは、何か話したいことがあるから脱線する。議題をある程度決めていながらも脱線してしまうんです。そのときに強引に遮断してしまうと、コミュニケーションが崩れてしまうので、とりあえず脱線したときは脱線させてしまいます。その分話せなかった議題を電話やオンラインやメールで形を変えてサポートすることになるのかなと。
――時間を区切る目安はあるのですか。
ざくっとしたペースだとしても20分ずつの配置で考えたりします。その中で、早く終わった議題に関しては繰り上げていくという流れで進めます。
――そうすると、比較的脱線する余地が減りますね。
私は、会議はコミュニケーションを取る場ではないと思っています。会議の場をコミュニケーションの場と勘違いしている方は結構いらっしゃると思うんです。コミュニケーション自体は信頼関係を築く意味ですごく重要です。しかし、それは会議とは別の場でつくるようにしています。
たまに会う1時間と、1週間のうちに毎日数分ずつ会ったトータルの1時間だと、どちらがより信頼関係を築けると思いますか? 実は後者のほうなんです。たとえばチャットでもいいんです。そこでリアクションがあるかないかというだけで、信頼を得ることができるので、ふだんのコミュニケーションの積み重ねが信頼を得るために重要だとは思っています。

ディベートは相手を打ち負かすことではなく、相手のことを考えること

――日本人特有だと思う会議のやり方はあると思いますか。
いろいろな企業様の会議に参加すると、日本人はディベートが下手だなってすごく思うんです。同調圧力が強いとか、反論すると角が立つとか、白黒つけたくないとか。
ディベートをやろう!』という子ども向けの面白い本があるのですが、この本はビジネスマンにとっても勉強になるのでぜひ読んでもらいです。たとえば「給食はご飯がいいか、パンがいいか」という話があります。ご飯の立場の人は、まずパンの人がご飯のダメなことを言ってくる内容を考えます。そして、「こう言われたらこう返そう」と考えるわけです。
つまり、自分の主張の前にまず相手がどう考えているかを想定する。だから、ディベートは自分が話すことよりも、まず相手が考えていることに着目する。これは会議でもプレゼンでもすごく重要なことです。相手のことを考えながら論理の筋道を立てることが前提なので、脱線したり、ひっくり返したりすることがなくなるんです。いろいろな視点が持てるし、ディベートはどんどんやっていくべきだとすごく感じています。
ディベートをやろう! 論理的に考える力が身につく (楽しい調べ学習シリーズ)
――ディベート力を身につけるのはそれなりの訓練も必要ですよね。
ディベートをやるのは、人の話を聞くことになるんです。相手がどう出てくるか、相手がどう攻めてくるかということを考える。そのために相手の話もしっかり聞かなければならない。相手のこともすごく尊重しているんです。会議の中で、そんな仕組みができれば、「ああ、この会議だとやりやすい」となるかもしれないですね。
自分の意見が正しいと思いながら話すことはもちろん大切です。ただ、人の意見をどう聞き取るかが同じくらい必要なのだと思います。あとは、自分の意見をどう相手に伝えられるかという点で、客観的データも含めて出していく。それが会議に必要なことかと思います。

切腹文化から脱却しないとどんどん後追いになってしまう

――アジャイル(俊敏さ)やダイバシティ(多様性)の必要性が叫ばれる中、近年の会議が抱える問題は何だと思いますか。
日本人は得することよりも損をしないことを選ぶ。特に日本は切腹文化なので、「これを失敗したら辞めなければいけない」という暗黙の強迫観念があるんです。プロジェクトから外れるとか、どこかに飛ばされるということもある。だから改革しようという文化がないんですね。もちろんトップダウンでがんがん進めるということもありますが、切腹文化がビジネスを新しい展開に持っていけない原因かなと思ったりもします。
逆に、「競合がこれをやっているから」と、成功している事例に追従して安全パイばかり狙う文化は、打破しなければいけないのかなという気がします。
――日本は教育も仕事も減点主義の傾向が強いですね。
そうですね。加点よりも減点を気にする。いろいろな企業様の中でお話をさせていただくと、攻めよりも守り。守っていると思ったら、全然違うところから競合が現れて慌てる。特にIT業界は本当に動きが早いので「あれ?」って思ったときにはもう遅い。「ちょっと生きてるの?」みたいな感じになってしまいますからね(笑)。
目標値とコンセプトがきちんと固まっていないと成功事例のマネをすることになってしまう。ちゃんとしたコンセプトの中でビジネスモデルをつくっていかないと、後追いになってしまう。そうすると、追いつけないし、追い越せない。もっと俯瞰した視点で「そもそも何のための事業なの?」といった原点から考えないといけないと思います。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

大本 あかね(おおもと あかね)allWebクリエイター塾
allWebクリエイター塾代表。2004年よりallWebクリエイター塾の元祖になる塾の発足者。 2007年にallWebクリエイター塾に改名し本格的に運営。当初のコンセプト通り習得したいWebスキルを短期間に習得できる講座を低額で提供し、分かりやすい講座のための企画・運営を行っている。共著に『ノンデザイナーでもわかる UX+理論で作るWebデザイン』がある。

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