人は論理だけじゃ動いてくれない【スマート会議術第136回】

人は論理だけじゃ動いてくれない【スマート会議術第136回】ファイヤー株式会社代表 長田卓史氏

花王、ボシュロムなど大手企業で営業、海外での人材育成、ブランドマネージャー、マーケティングなど多岐にわたるキャリアを積み上げ、40代になるとベンチャー企業に転職。そして、50歳にして独立。現在は研修講師、エグゼクティブコーチ、キャリアコーチとして活躍する長田卓史氏。

コロナ禍によってテレワークが推奨される中、長田氏は「コミュニケーションにテレワークだから、リアルだからという物理的環境の違いに意味はない」と言う。むしろ直接会うか会わないかに関係なく、ノンバーバル(非言語)によるコミュニケーションの大切さを強調する。そこには「論理だけでは人は動かない、人は感情で動く」という強い信念があるからだ。

海外で日本人と外国人のコミュニケーションの橋渡しをしてきた長田氏に、テレワーク時代のコミュニケーションのあり方についてお話を伺った。

目次

人は15%の論理と85%の感情で動く

――大手企業に長年勤めつつ、ベンチャー企業に転職したのはなぜですか。
自分の人生、このままでいいのかなって思ったんですね。大企業にいると私が辞めても代わりはいくらでもいます。でも、大企業からベンチャー企業に飛び込んでいってやる人はなかなかいない。また平成は失われた20年の時代だったので、何か日本の経済の活性化に役に立ちたいなって思いました。日本の市場を大きくしていくためには新しい産業を立ち上げることが一番。ベンチャーに飛び込むことが、自分の生きてきたビジネスパーソンとしての証になるんじゃないかなって思いでベンチャーに行きました。
――それは、大企業で働いた体験を経たゆえに生まれてきた思いですか。
そうですね。大学を卒業した時点では全然そういう気持ちはなかったです。マーケティングの仕事もそうです。あと海外に出て行くのも新しい市場創造だったなと思っています。
――そして、50歳にして独立しました。いまは具体的にどんなお仕事をされているのでしょうか。
いまは、研修講師、エグゼクティブコーチング、あとキャリアコーチングの仕事をやっています。引き合いが多いのは、主に1on1ミーティングの指導です。上司と部下のコミュニケーションをどうすれば構築できるのかを具体的に伝えていく仕事が非常に多くなっています。
特に信頼関係を築くコミュニケーションをやっていくことと、ノンバーバル(非言語)でのコミュニケーションを大事にしています。それがいまのテレワークの時代に非常に重要だと感じています。
日本人の若手ビジネスパーソンを海外に2~3週間連れていって合宿するプログラムがあるのですが、どうやって外国の人を巻き込みながら動かしてチームとして成果を出していくのかというワークをやっています。海外で人を動かしてくためにはノンバーバルコミュニケーションがすごく大事になっていて、そこを合わせて伝えていくことが私の仕事の特徴だと思います。
――営業からマーケティングまで多岐に渡ってお仕事をされてきていますが、その中で一貫して共通するのはコミュニケーションを通じて人を動かすということでしょうか。
そうですね。仕事は1人では何もできない。たとえば私がビジネスでタイに行ったらタイ人の方々に動いてもらわなきゃいけないわけです。そこで大事なのは理感一致のコミュニケーションです。人は論理だけじゃ動いてくれないし、感情のコミュニケーションがないと動いてくれない。「人は論理でなく感情で動く」とよく言われることですが、「人は15%の論理と85%の感情で動く」というのが、私が肌で感じた持論です。 
信頼関係がないと、「あの人の言うことは正論だからわかるんだけど、言うことは聞きたくない」という感情は誰にでもありますからね(笑)。私も毎日のように上司と部下の1on1ミーティングの研修をしているとマネージャーの方々からそういう声が出てきます。
たとえば「部下が率先して声をかけてくれるようになった」とか、逆に部下からは「すごく話しかけやすくなった」とか、「いままでは人を説得しようとしていたけど、大事なのは納得だと、その違いに気づきました」っていう声をよく耳にします。そうすることによって、やっぱり仕事が円滑に進んでいくんですよね。

観察→承認→傾聴の繰り返しで築く信頼関係

――1on1ミーティングをやる企業が増えていますが、なぜ1on1ミーティングを重視するようなってきたのでしょうか。
新しいマーケットのニーズをつかめないとか、的確に市場ニーズに合ったサービスやアクションが取れないっていう声がよく出てきています。従来はトップダウン型でよかったけど、いまは現場で起きていることをいかに早くつかんで、それを提案していって、周りを巻き込んで行動していく。自分で考えて自分で提案して行動して結果にコミットする――そういう人が必要なので、いままでのやり方ではマーケットに対応できないと感じているようです。
――その危機感を持たない企業は後れをとっていくのでしょうね。
おっしゃる通りです。そこに気づかれる会社さんがどんどん1on1ミーティングをやっています。成功事例を見て、その成功している会社がなぜ自社と違うのかということに気づかれたんじゃないですかね。
――1on1ミーティングと言っても、上司と部下が2人きりで対面するとますます緊張感が漂ったり、萎縮したりするケースもありませんか。 
そこが一番大事なポイントで、私もZoomを使ってオンライン研修をやるときに、まず「自分の画面を見てください」と言います。「もしあなたが部下だったら、話しやすいように見えますか?」と話をします。そうすると「仏頂面」「怖い顔」「話しにくそう」「無表情」といったコメントが出てくるんです。自分が職場でいかに話しにくい雰囲気を醸し出しているのかということに気づいてもらう。それが一番大事だと思っています。
1on1ミーティングを成功させるカギは、上司の圧力をいかになくすかってことなんです。本人にそのつもりがなくても無言の圧力というのがあるんです。「この人の前では正しいことを言わなきゃいけない」とか、「こんなこと聞いちゃいけない」とか、そういう圧力がかかっているので、それを感じさせないことが大事だと伝えます。
――とはいえ、その人のキャラクターもあるので、いきなり笑顔で「調子はどう?」ってやるのも難しいと思うのですが。
そうですね。いきなりキャラがガラって変わると「え?なんで?」って驚かれますよね。ポイントは2つあると思っています。ひとつはあえて通常のミーティングと別に1on1ミーティングをやる。これはメニューがまったく別です。通常の問題解決とか課題解決のミーティングはそのままのキャラでやる。
だけど部下の成長支援という目的の1on1ミーティングでは、やり方を変えますよって宣言してやると、キャラが変わるのが当たり前になる。人事評価の枠を外して1対1の人間として話そうと表明するわけです。1on1ミーティングって一人あたり月に2回、1回30分と言われています。それだけの時間であればキャラが変わったりしても違和感なくできるようになると思います。
――「こういう目的だから」という事前説明が必要なんですね。
何のために、どういう関わり方をするのかということを事前に明確に伝えておくことが大事になります。それがないと「何で急に?」となってしまう。あとは普段のコミュニケーションと信頼関係の構築ですね。信頼関係というのは、ちやほやしたり、友だち関係みたいになったりするということではなく、目を見て「おはよう」と挨拶するとか、「あ、今日は元気そうだね」くらいの一言です。急にキャラが変わるような一言は必要ありません。こまめにちょっとした一言で相手を認めていくことがすごく大事だと思っています。いわゆる存在承認ですよね。あと「やってくれてありがとう」という簡単な労いの一言。職場で「ありがとう」ってなかなか言わない人が多いんです。相手のことを承認する。承認、傾聴が大事です。観察→承認→傾聴の繰り返しですね。

日本人に欠けているWell-beingの思想

――テレワークが増えてきたことで、1on1ミーティングの状況で変わってきたことはありますか。
テレワークだとコミュニケーションがとりにくいと言っていますね。
――とりにくい主な要因は何ですか。
まず相手の表情がよく見えない、話がよく聞こえないので、何を考えているのかわからないというのがあります。あと普段の仕事ぶりが見えない。何をしているのか見えないことが大きな悩みになっています。普段の職場ですと、横にいれば「あ、いまあれやってるな」「これやってるな」って動きがわかるけど、いきなりオンラインで顔を会わせても、どう話したらいいのかわからない、相手の行動がつかみにくいという声が多いです。
――職場で近くにいるからといって、四六時中、部下を監視しているわけではないですよね。言い訳にしているような気もしますね。
おっしゃる通りです。僕もそう思います。でも一方で、部下のほうは疑心暗鬼なんですよね。もしかしてサボっていると思われているんじゃないか、仕事を頼みにくいって思われているんじゃないか、自分の仕事を認めてもらえているんだろうか、どんなふうに評価されているのか、といった不安を抱えることが多いようです。
あともう1つ大事なポイントが、部下のほうはキャリアを心配している。これから先どういうふうにステップアップしていけるのか、理想の仕事に就けるのか、先行きがわからないこのコロナ禍の中で将来どうすればいいんだろうかと悩んでいるけど、上司のほうはそこまで目が行き届いていない。目の前のことを回すだけで精一杯なので。そこに対するコミュニケーションが足りないことが、より部下の不安を煽って生産性を下げている原因だと思います。
でも、こういう話を海外の方とすると、海外の人はテレワークに対する抵抗感があまりないんですよね。テレワークが難しいという声をあまり聞かないんです。日本の特殊な要因があるじゃないかとちょっと思っています。
――単にIT環境の問題ではないということですか。
関係ないと思います。やっぱり普段からコミュニケーションをとっていないからなんですよね。たとえば海外ですとジョブディスクリプション(職務記述書)があって、「あなたの仕事はこれですよ」って明確にして仕事を任せるんですけど、日本だと「あ、〇〇さんちょっとこれやっといて」「やりながらまた説明するから」っていうような仕事の依頼の仕方が曖昧だったりする。その場にいてくれる前提でやっている。そういうところから正していかないといけない。
ヨーロッパの企業に勤めている友人と話をすると、「Well-being」という言葉がよく出てくるんですね。Well-beingって健康と社会的つながりを持てている状態。健康なだけではダメで、いかに自分が社会に貢献できているとか、地域社会にも貢献できているとか、そういうところを含めた、心も身体も健康な状態を言います。それを従業員が感じることで生産性も上がっていくし、エンゲージメントも高まっていく。そこに対して企業のほうも舵を切ってくべきだという動きが出てきていると思います。
――いまの日本の生産性とか働き方とか、テレワークも含めてWell-beingを実現するためには何をすればいいと考えますか。
海外の場合は仕事をするのに、比較的制限時間があるんですよね。たとえば、サッカーと野球の違いだと私は思っていて、サッカーは90分でプレーしますよね。90分の中で何点とれるか。野球は9回終わるまで何時間でもやりますよね。なんかその違いだなって感じています。野球のように何時間かけようが、仕事が終わるまでやるって考え方。そうではなくて90分の中で何やる、何をやめる。で、そのやめるってところ、やらないってところが明確だと思いますね。
「日本人は反則だ」と、海外の人に言われたことがあります。たとえば90分で何点とるかという全世界共通のゲームをやっているのに、日本人だけ90分で終わらずに3時間も4時間もプレーしていると。だから経済力があるのは当たり前だよねと。それであなたたち幸せなんですか? と言われたことがあるんですよね。確かにそうだなと改めて考えさせられました。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

長田 卓史(ながた たくし)ファイヤー株式会社
ファイヤー株式会社代表。研修ファシリテーター/国際ボディランゲージ協会認定講師コーチ/ストレングス・コーチ。明治大学卒業。花王株式会社で東南アジア駐在、ビオレのマーケター、ボシュロムジャパン株式会社でブランドマネージャーを務めた後、金融ベンチャーのアニコムホールディング株式会社経営メンバーの一員として東証マザーズ・一部上場に貢献する。人生のテーマである「ワークエンゲージメント」(人々が仕事に誇りを持ち、情熱を燃やし、働くことで人生が充実する)を高める活動に注力するため、創業。現在は研修ファシリテーター・エグゼクティブコーチとして活躍中。研修テーマは、ワークエンゲージメント、コミュニケーション、OJTトレーナー育成など多数。ワークショップ(参加・体験)形式の研修デザインを得意とする。

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