テレワークに大切なのは「ちょっと話していい?」という空気づくり【スマート会議術第147回】

テレワークに大切なのは「ちょっと話していい?」という空気づくり【スマート会議術第147回】ラウンズ株式会社 代表取締役 合田 翔吾氏

「すべての人にテレワークという選択肢を」を企業理念に、2018年からテレワーク推進事業に取り組むラウンズ株式会社。同社は「声のバーチャルオフィス」と銘打ったビジネス専用音声コミュニケーションツール「roundz」を開発・提供し、企業が安心して積極的にリモートワークの導入を推進することを応援する。この業績が認められて2019年、2020年と2年連続で総務省「テレワーク先駆者100選」に認定。

「人々が働く場所から解放され、誰もが好きな場所で働くことのできる社会を目指したい」

そう語る同社代表取締役の合田翔吾氏。

「働く場所からの解放」を目指すために、なぜ「声のバーチャルオフィス」にこだわったのか? 合田氏に、「roundz」を開発した意図と働き方改革とテレワークの関係性についてお話を伺った。

目次

生産性を落とす2つの壁

――ラウンズを設立するに至った経緯と事業内容をお教えいただけますか。
弊社は2018年に「すべての人にテレワークという選択肢を」というスローガンを掲げて創業しました。事業内容としては、バーチャルオフィスツールの「roundz(ラウンズ)」の提供と、テレワークの専門メディア「シゴトバ」を運営しています。以前はテレワークの導入コンサルティング業務もさせていただいていました。
私生活で子どもが産まれたり、妻が転職したりするなど、結構多くのことが一度に重なった時期があり、住む場所についていろいろ考えたのがテレワーク事業を始めたきっかけです。いま住んでいる場所から通勤するのか、職場の近くに引っ越すのか、子どもに育ってほしい環境とか、そういった場所についていろいろ考えていたときに、「何かを犠牲にしないと住む場所を選べないっておかしくない?」ということに気づかされたんですね。
私自身はITエンジニアで、パソコンさえあればどこで働いても仕事はできるのですが、実際に仕事を探してみると、テレワークは週2日限定とか、新入社員はテレワークが使えないとか、給料がちょっと低くなるとか、そういった厳しい但し書きばかりでショックを受けました。「もしテレワークが進められない理由があるんだったら、自分自身で排除して自分の好きな仕事がどこでもできるような環境にしたい」と思ったのが起業した経緯です。
育児をしながらの仕事もテレワークならでは。
――ITエンジニアの仕事でもテレワークの環境が整っているわけではないのですね。
じつはそうでもないです(笑)。スタートアップのように創業したときからテレワークを使っていくと決めて起業している企業は、結構テレワークが進んでいるのですが、途中からテレワークに変えるというのは、すごくハードルが高いですね。IT企業でも組織全体でテレワークに移るのが意外と難しいです。
――具体的にどういう点がネックになっているのですか。
テレワークを進めていくうえで、初期の壁はペーパーレス化です。紙じゃないデジタルツールに置き換えたときに、デジタルツールの使い方を覚えなきゃいけないとか、デジタルツールのワークフローに沿ったプロセスに変えなきゃいけない。一カ所を変えると、他の部署とのやりとりをそのツール中心に設計し直さなきゃいけないことになるので、結構多岐にわたって波及してしまうというのがあります。
どうしてもIT系の開発の部分だけで完結させるとことができなくて、全体としてどういうプロセスに置き換えるのかという話まで話が広がってしまう。そうなると、難しい、リスクが高い、コストがかかるということで踏み出せないことが大きいですね。
――最初からテレワークを導入している会社でも、生産性が落ちるリスクを孕んでいることはありますか。
最初に正しく仕組みをつくらないと、どうしても生産性が落ちてしまうところはあります。まずコミュニケーションがすごく重要な要素としてあると思っています。コミュニケーションを考えたときに大きく分けて2つ必要なものがあって、ひとつは「テレワークスキル」。もうひとつは「管理者とメンバーの意識の所在」が同じところにあるのかどうかということ。
従来のテレワークだと、すべてのやりとりがテキスト中心になって、たまにWeb会議をやっていく形になる。心理的にどうしても楽な方法をとりがちになるのでテキストにとらわれるんです。そうするとテキストですべてをちゃんと伝えなきゃいけない。効率的かつ必要な情報を構築して、文章にして伝えるということをしなきゃいけない。でも、ほとんどの企業はこれまで社内で口頭でやりとりをしていたので、ちょっと間違ったことも口頭で言えば訂正してもらえる機会が何度もあった。それがテキストに置き換わってしまうと口頭でのやりとりが少なくなって、意図しない違うことが伝わってしまうことが頻発するんですね。
コロナ禍以前からテレワークを進めていた多くの企業にインタビューさせていただいているのですが、「どういう人を採用しますか」という質問に、「テキストできちんとコミュニケーションがとれることが絶対条件」と足切りの条件にされるくらい、テキストスキルを持っていることがすごく重要なんですね。ただ、既存のチームで全員がテキストスキルを持っているとは限りません。既存の企業がいきなりテレワークやろうとすると、どうしてもテキストスキルについてこられないことが多いですね。
もうひとつの「管理者とメンバーの意識の所在」に関しては、メンバーは自分の仕事が効率的に回るように局所的な最適化をしようとしますが、管理者としてはチーム全体での最適化をしようとします。誰かに一時的に犠牲になってもらいながらでも、そうすることでチーム全体を最適化しようとする。そのときに、管理者とメンバーの間に意識のズレが出て、コミュニケーションのギャップができることがあります。
私としては管理者の方たちには「自分はチーム全体のためにこういうやり方をするんだよ」と必ず宣言をしていくように伝えます。そうするとメンバーの方たちも「自分にとってはこのほうがいいけど、チーム全体としてはその方法がいいかな」と思えばそういう意識を持ってくださるので、コミュニケーションのとり方も変わってくると思っています。
――テレワーク導入に踏み切れない要因のひとつに、ちゃんと管理していないと何をやっているかわからないという不安や信頼関係の問題があると思いますが、その点はどう考えますか。
そうですね。性悪説に偏りがちだということは私もすごく感じます。ただ、もともとお互いを信じていない状態でスタートしているわけではないと思います。毎日の小さな不安感が積もってくることで、疑心暗鬼の状態に陥るのが大きな要因なので、ちょっとした会話でも毎日ちゃんとしていることが重要だと思います。
テキストスキルの中に、私たちは「感情を表現する」ことも含めているのですが、現状はテキストで自分の感情を伝えることの難しさがすごく軽視されています。うれしいこととか、ちょっと悩んでいることをテキストにしてしまうとどうしても硬い文章になったり、書き換えてしまって感情を抑えたりする傾向がある。そういう些細なこともちゃんと伝えないと、その人がいま悩んでいるのか、楽しくやっているのかもわからない。淡々と物事が進んでいるように見えるけど「自分が思っている方向とちょっとズレてきて怖いな」といったことが毎日積み重なって、「みんなちゃんとやってくれていないのでは?」と、だんだん人を信じられなくなるようなところがあるのかなと思っています。

roundzが音声にこだわる理由

――御社のバーチャルオフィスツール「roundz」が音声に絞っていることは、感情表現という点と大きく関係しているのですか。
はい。当初始めたとき、テキストによるコミュニケーションと声によるコミュニケーションと、実際に対面で非言語コミュニケーションを混ぜたときのコミュニケーション、それぞれがどう違うのか、いろいろな論文を読んだりして調べてみました。その中で、テキストは事実情報を提示するのにはすごく有益なツールだけど、感情を表現するには不向きなツールという論評が多くて、それにすごく納得したということもあって、roundzのベースにはその考え方が強く出ています。
だから、roundzを始めようとしたときに声でのコミュニケーションが重要だというのを最初に考えました。でも、声でのコミュニケーションといっても、テキストチャットツールにも電話機能はついているので、実際にどれくらい使われているのか調べたのですが、実際にはほとんどの人が音声ツールは使わないんですね。
やはり「相手の邪魔をしちゃいけない」という意識が強く、心理的なハードルが高かったんですね。そうするとツールがあっても使えないという状況になるので、そのハードルをどうやって取り除くのかを突き詰めた結果、どうしてもビジュアル(映像)というハードルが出てくる。「お化粧してないからやめよう」とか、「子どもが後ろで遊んでいるからやめよう」とか、余計な情報まで入るとコミュニケーションをとること自体をやめてしまうということがすごく多くなると考えました。
roundzではそういう余計な情報は排除しつつも、できる限り相手側が「いま話を聞いてくれる状態」を提供することで、コミュニケーションをとりやすくするところに特化してつくられています。
――これまでにあまりないコミュニケーションのあり方が求められそうですね。
そうですね。私たちはメンバー同士の関係値の距離や高さによって、コミュニケーションのハードルが大きく変わるという認識をしています。ちょっとした情報すら知られたくない、相手のことが嫌いだから自分のことを何も知られたくないという関係値の人もいらっしゃいますし、好き勝手に話しかけられても構わないという人もいらっしゃいます。ただroundzでは、組織・チームとして成立することが目的なので、ある程度幅広い関係値の人たちが集まったときに機能するためのバランスをコントロールして、環境としてつくりあげていくイメージですね。

テレワークの課題はプライベートの担保

――テレワークの課題として「雑談」がしづらいという声も多いですが、音声ツールは「ちょっといい?」「いま空いてる?」といった「ちょっと話す」ようなシチュエーションでの役割が大きい気がします。
そうですね。「ちょっと話したいんだけど」という形でのコミュニケーションの始まりは、roundzのすごく重要な使われ方のひとつになります。この「ちょっといい?」が本当に重要だということを、私たちは「1分会議を1日何回もしましょう」と文章に置き換えているのですが、リモートだと「次のミーティングで話そう」か「テキストで確認しよう」かの、どちらかに集約されがちです。ただテレワークをしながら効率的に情報共有をしながら進める意味でいうと、ある疑問が出たときに、それが1分で解決するのであればさっさと話して終わらせたほうが絶対にいいので、そういうコミュニケーションがroundzでは普通にできるようにしています。
――使い方としてはオンラインでつなぎっぱなしにするイメージですか。
そうですね。常時接続型のボイスチャットツールです。それをもってバーチャルオフィスツールと表現しています。常時接続と言うとイメージ的にイヤがる方も多いので私たちは常時接続という表現は使わないのですが、イメージとしては近いです。Zoom会議を立ち上げて、全員Zoomに入ったままでビデオは切っておいて仕事をするイメージですね。
――常時接続に対する抵抗感は主に自宅で生まれると思いますが、今後の課題はありますか。
やはりプライバシーが守られるかどうかが一番大きいですね。家の中の音がみんなに聞かれる可能性を考えただけで、すごく怖いんですよね。実際にZoom等でつなぎっぱなしにして運用される企業さんも多いですが、やっぱりミュートを忘れてしまうのが怖いとおっしゃられる方もいますし、逆にミュートを忘れてしまうと、その他のつながっている人たち全員がノイズにさらされることになるので、それはそれで全体の効率を下げるといった問題も出ます。
roundzは、そういった消し忘れも管理しますし、話すときにパソコンのキーボードを押している間だけ話せるという使い方もできるので、話すときだけ押して、離していればつながっていない状態を保証することで、プライバシーを守りつつコミュニケーションのハードルをどんどん下げることを目指しています。
イメージとしては、ずっと画面上にいて他のメンバーも同じ部屋にいる状態ですね。たとえばマイクのボタンを押すと、この部屋にいる人全員に声が聞こえているような形で、普通に作業をしていても、自分のパソコンのキーボードのキーをポンと押すとマイクがオンになる。離すと消える。何か作業をしていて「この部分ちょっと変えたから、〇〇さんに確認しよう」ってときにキーを押して、「〇〇さん、この部分ちょっと変えたんですけど、見てもらえますか」と話しかけて、画面共有をして「あ、それでいいですよ」っていうので、その時点で話が終わる。「ちょっと話していいですか」っていうのを、パソコンのキーボードのキーを押せばすぐ話せるし、「あ、いま〇〇さんはグリーンだから話してもいいや」って話しかけることができます。物理的・心理的なハードルもかなり下げられていると思います。
――逆に接続していても「誰も声をかけないで」という意思表示ができるということですね。
そうですね。「取り込み中」にしておくと、その間は「誰も話しかけないで~」とできたりとか、あるいは「集中部屋」とか「会議室」といった他の部屋をつくっておいて、移動しておけば他の人は入ってこない形のルール運用だったりとか、各社様いろいろなつくり方をカスタマイズされています。

「誰とそこで働くか」というのが重要

――チャットツールが浸透してきたことで、隣同士でもチャットでやりとりするケースが増えています。席が隣や正面だったりしても直接話さない。オフィス中がしーんとしているオフィスが多い。わざわざオフィスに集まっている意味があるのかなと思ってしまいます(笑)。
そうですね。私もどちらかというとテキストだけでできないことはないんですけど、「その組織で働く意味ってなんだろう」と考えたとき、成果物だけですべてが評価されるのも形としてはありだと思いつつ、「誰とそこで働くか」というのがすごく重要だと思っています。その人たちとつながらないで仕事をするっていうこと、あるいは業務的な情報のやりとりだけで仕事が進むことが、必ずしもいいことではないと思っています。
おそらく今後はそういうジョブスクリプション型の方向性をとる企業ももちろんいらっしゃると思います。一方で、私たちが提供しているような環境がいままで全然普及してこなかったので、そういう選択肢しか取らざるを得なかったという企業も中にはいらっしゃると思うので、テレワークを支える新しいサービスが出てくることによって、デジタルの世界でも多様な文化がつくれるという形に変わっていくんじゃないかなと思っています。
――情報伝達の会議であれば問題ないと思うのですが、アイデアや企画を出すような会議のときは、やはりテキストだけのやりとりだと物足りないですよね。
そうですね。あとWeb会議で対応しきれない領域と認識しているのは、やはり交渉ごとですね。交渉ごとは微妙なタイムラグとか、相手の表情とか、画面の外にある身体の動き、そういった微妙な動きを敏感に察知して出方を変えるような、すごくシビアなコミュニケーションはいまのWeb会議ツールではまだ十分に対応できないのかなと思います。
roundzはプライバシー優先で顔も表示しないというスタンスをとっていて、「ちょっと話していい?」といった話のときは比較的軽いノリなので、交渉ごとではあまり使わないんですよね。交渉ごととか、より繊細なコミュニケーションとりたい場合は、Zoomを設定してコミュニケーションをとる。あるいはもっと重要なのであれば実際に会うというのも、ひとつの選択肢として残っていくと思います。

文・鈴木涼太

合田 翔吾(ごうだ しょうご)ラウンズ株式会社
ラウンズ株式会社代表取締役。1986年生まれ。小学生の頃から兄のPCでプログラミングを開始。筑波大学にて音響計測の研究で工学修士を取得。修了後はシュルンベルジェ株式会社にソフトウェアエンジニア・アーキテクトにて7年間グローバルソフトウェア開発に従事、国をまたいだリモートチームでの開発を行う。その後、同僚と株式会社Parasolを共同創業。2018年、共働きでの乳幼児の子育て経験から、誰もがテレワークを選択できる社会の実現を求めて、「すべての人にテレワーク という選択肢を」をキーワードに、テレワークソリューションの開発を行う株式会社GOWiDE(現 ラウンズ株式会社)を創業。企業が安心して積極的にリモートワークの導入を推進する業績が認められて、2019年、2020年と2年連続で総務省「テレワーク先駆者100選」に認定。

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