手書きで伝える【第6回】

手書きで伝える【第6回】前田鎌利 (書家/プレゼンテーションクリエイター)

さて、いよいよあなたの「念い」を伝えるわけですが、ビジネスシーンでは、パワーポイントやキーノートでのプレゼンテーションがメインツールとなります。配布資料を印刷して配ったり、ワードで案内状を書いたりすることもあるでしょう。

この画一的な伝え方の中に、「手書き」という表現が加わるとどうでしょうか?

ここで、相手の立場に立って考えてみましょう。パワーポイントやワードなどのツールを使って情報が伝達されるのは想定内です。では、相手が驚いたり、感動したり、記憶に残ったりするのはどういった場合でしょうか?

プレゼンに限らず、日常において自分の予想を超えたときに、大きな驚きや感動が伴い、深く印象に残ります。 そこで、誰でも簡単にこの想定外を作り出せる手法として「手書き」の表現を取り入れます。

たとえば、

・パワーポイントでピンポイントの手書きスライドを使用する
・名刺に手書きを添える
・お礼状には手書きの一筆箋コメントを添える

といった「手書き」を活用します。大切なのは、あなた自身の「念い」を端的に表現できているかどうかということ。

もうひとつは、どこまで相手の立場に立って考えられているか? ということになります。

NTTデータ経営研究所が興味深い研究を行なっています。2017年に発表した「アナログ価値の実証実験」において、タイピングされたものよりも手書きのほうが「時間と手間をかけてくれている」ということを読み手が感じ取り、書き手へのポジティブな印象や、書き手の人となりの理解につながっているという実験結果が提示されました。以下、レポートより一部抜粋しましょう。


これは、時間をかけて丁寧に思いを込めて書く(時間・運動コストを掛ける)ことは、そのコストに見合った情報が読み手に伝わるという考え方もできます。
このように手書きによるコミュニケーションは「相手への思い」、あるいは「自分らしさ」 を伝達できるという点で、電子媒体によるコミュニケーションにはないユニークさがある と考えられます。
もちろん、実験結果には、タイピングによる活字でのコミュニケーションは、短時間で入力でき、かつ「読みやすく丁寧である」という印象を与えるので、一定の伝達品質を有する「コストパフォーマンス」のよいコミュニケーション手段とも言えるので目的や状況に応じて、デジタル・アナログ両者の恩恵を上手に使い分けていくことが日々の社会生活をより豊かにしていくうえでも必要なのではないでしょうか。

このように、「手書き」には一定の効果があるという研究成果も出ています。「手書き」とタイピングによる活字を使い分けるのが有効ですが、そうはいっても、字の上手・下手があり、人前で自分の文字を見せることは避けたい、というのも心情です。

ここで、さらにもう一歩この議論を進めて、そもそも手書きの文字を使って相手からどう見られたいのか? について選択肢があるのを皆さんはご存知でしょうか?

私たちは、文字には「上手」か「下手」かの二分類しかないように考えてしまいますが、じつはそうではないのです。

小学生のときに、私たちは等しく書写という授業で書を習うことになっています。不思議なもので、書はお手本どおりに書かないと朱で直されてしまうため、「綺麗に書かなくてはならない」「読める字を書かなければならない」「上手に書かなければ ならない」といった具合に自由度がないまま小学校・中学校と進むことになります。これでは、字を書くのが嫌いになったり苦手になったりするのは当たり前です。多くの生徒さまが当方の書道教室に通われていますが、左利きの方も多数お見えになります。

左利きだった方は幼少期に右手で書くように全員が矯正されたと言っています。書は右利きを基準にして文字が作られているため、右手で書いたほうが綺麗になるのは理にかなっているのですが、現代においてそれを遵守しなければならないために、本当に多くの方々が書くことにサジを投げてきたと思います。

何度も申し上げますが、「念い」を伝えることが大切なのであって、文字の上手さを伝えるものではないのです。大切なのはメッセージそのものなのですが、そこに「手書き」要素で驚きや感動を与えることで、より深く印象づけるのです。

では、上手でもなく、下手でもない手書き文字の見せ方とは何か? それを一言で言うならば、「味」です。あらかじめ断っておくと、上手に書きたい、綺麗な字が書きたい場合は、上手に、美しく、綺麗な字を練習して書けるようになっていただくことでよいのです。それもあなたが選んだ「味」のひとつです。上手ではないけれども個性的なほうが好ましいと思えば、それがあなた自身の「念い」の伝え方になるのです。

つまり、上手に綺麗な文字が書けるから相手に伝わり、感動させたりするわけではないのです。苦手な方も書き方を意識するだけで味のある文字を書くことができます。そして、あなたが選んだ文字のジャンルがあなた自身をブランディングする一助となり、あなたの「個」を認識するのです。

それと、綺麗な字を書いたからといって「念い」が伝わるわけではない、というのが私の書家としての見解です。上手に達筆な文字の素晴らしい手書きのお手紙をいただいたからといって、心が動かされるということではないのです。

それはそれで、「達筆だな」「たくさん練習されたんだろうな」と思うのですが、そこにとてつもなく心がこもっているように映るのかどうかは、受け取った方によって捉え方が異なるということです。

想像してみてください。達筆なお手紙をいただいて、返信のお手紙を書こうとしたときに、一瞬躊躇しませんか?

たとえば、子どもが書いてくれた手紙や 「お父さん早く帰ってきてね」の一言な ど、「上手」か「下手」かではなく「念い」が伝わってきたりするものが多々あるわけです。もちろん、大人であっても 「丁寧に」「一生懸命に」「念い」を込めて手書きで書いてもらえただけで十分伝わってくるのです。

すでに普段から「手書き」をビジネスに取り入れられている方なら実感されているかもしれませんが、「手書き」が刺さるお客さまというのは、確実にいらっしゃいます。接客やホスピタリティを求められる場面でのメッセージ。保険や不動産売買など、高額商品やサービスの提供時やフォローなど、「手書き」でのコミュニケーションに「信頼」「誠実」「丁寧」「真心」といった価値を感じてくださるお客さまです。

効率化が優先されるいまの時代、ビジネス文書を「手書き」で書く必要はなく、「手書き」を使うシーンはごく限られています。署名や特別な顧客に礼状や詫び状を書くことぐらいではないでしょうか。

ただそのとき、何の意識もせずに「手書きで書きさえすれば効果がある」という認識でいると、不思議なことに「この人は形式的に手書きで書いているだけだ」ということが文字に現れて伝わってしまいます。こなれた感や雑な感じが否めないのです。

そうではなく、そこから一歩進めて、「念い」を込めることで、手書き文字が自分を印象づけるツールになり、自分を表現することになるのです。打合せや商談の後、メールですぐ「今日はありがとうございました」と返すスピード感は大事です。さらに、お礼状など、手書きで感謝を伝えることで相手の印象は大きく変わります。私もお礼のメールを送り、その後お手紙を添えてお返しをすることもあります。

ビジネスはスピードがあって然るべしですが、さらにもうひと手間加えられるかどうか。「スピード感+α」があなたの「ブランディング」になるのです。

以前、コンサルティングをしていた企業さまで、すでに決まっていた物件をどうしても自社にて出店したいという「念い」を手書きの手紙で伝えられました。

その物件のオーナーは、「念い」の込められた「手書き」のお手紙に感動されて、その企業は希望する物件を押さえることができたのです。未来を切り開かれたのです。

世の中は、いままで以上に激しく変化し、これまでの経験や常識が通じないことが、 ますます顕著になっていきます。その中で、いかに自分の「念い」を伝えられるかは重要なスキルです。

切り札になるのは、一ビジネスパーソンとして「個」を伝えることができるかどうか。それが大きな分水嶺(物事が決まる分かれ目)となります

「念い」ありき。
そしてその伝え方にも「念い」ありき。

令和の時代は、間違いなく「個」の時代。企業ブランドよりも、あなた自身の「念い」によって醸成されるブランド価値が相手の意思決定を左右するのです。

※当コラムは著書『ミニマム・プレゼンテーション』を基に補筆したものです。

前田鎌利(まえだ かまり)
書家/プレゼンテーションクリエイター、株式会社固(https://katamari.co.jp/)代表取締役。一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事。東京学芸大学卒業後、17年にわたりIT業界に従事。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、初年度第1位を獲得。2013年にソフトバンクを退社、独立。2016年、株式会社固を設立。ソフトバンク、ヤフー、ベネッセ、 SONY、JR、松竹、Jリーグ、JTなど年間200社を超える企業にて講演・研修を行う。著書に『ミニマム・プレゼンテーション』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『社内プレゼンの資料作成術』『社外プレゼンの資料作成術』ほか多数。

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