念い(おもい)ってなんなの?【第3回】

念い(おもい)ってなんなの?【第3回】前田鎌利 (書家/プレゼンテーションクリエイター)

前回より自己紹介を通して自分を伝えることを解説してきましたが、その中で「念い」という表現を使用してきました。

目次

念い(おもい)ってなんなの?

そもそも、「念い」という表現は見慣れない方もいらっしゃると思いますが、私はこの表現を使うことに意味を込めています。「おもい」の漢字表記には「思い」「想い」「念い」がありますが、それぞれ意味合いが異なります。
「思い」とは「田」と「心」という造形から構成されている文字です。これは「田」の部分は田畑を指すのではなく、子どもの脳を示すものでした。ですから、「頭や心で考えること」という意味合いがあります。
「想い」は「木」「目」「心」という3つの造形から構成されています。「木」を「目」にして「心」に芽生える感情を表します。ですから、何か対象を目にした際に心に宿る感情のことを表現しているのです。
そして「念い」ですが、こちらの構成要素は「今」と「心」です。直訳すれば「今の心」ですから「今の気持ち」ですが、ここには「強い気持ち」というメッセージが加わります。「今」の上の部分にある「人」に該当する箇所は、フタにあたります。
しっかりと自分の中にある強い気持ちという意味が込められているのです。「信念」や「念願」という言葉はまさに強い気持ちです。つまり、すべての言動の根底に一貫している「おもい」のことを「念い」と書くのです。「企業理念」という言葉に、「念」の文字が使われているのも頷けると思います。
そして相手の心に響くプレゼンにするためには、軸となる強い「念い」がしっかりと自分の中にあるかどうか、すなわち、伝えたい内容について自分で納得しているかどうかが重要です。その「念い」が確固たるものであれば、どのようなツールを使ったとしても、相手に自分の伝えたいことがしっかり伝わるのです。
もう少し具体的に「念い」について考えてみましょう。会社員の方であれば、企業理念は正に「念い」です。企業理念に納得していなければ、その企業に所属していても、何かしら物足りなさや違和感を感じるはずです。
独立起業して新たに事業を起こされるのであれば、その方の志にあたります。ビジネスをされていない方も、もちろんご自身の「念い」をお持ちです。「世の中が平和になってほしい」「子どもの健やかな成長が切なる願いだ」など、強い気持ちは誰の中にもしっかりとあるものです。
まずは、その「念い」と向き合うことが入口です。そして、この「念い」には2つの向くべき対象があるのです。
その対象とは、
❶自分の「念い」
❷相手の「念い」
の2つです。
まずは、自分の「念い」について触れてみましょう。私がソフトバンクに勤務していた際には、新規事業提案を行う場合や、通常業務で課題を解決する提案を行う場合など、「そもそも自分がどんな『念い』でこの提案を行いたいのか」を意識しました。
私が通信業界に就職したときの「念い」は、携帯電話の普及によって災害が起きた際に連絡が取れる手段を一人ひとりの方に持っていただくことでした。
1995年1月17日。阪神淡路大震災は、私が大学4年生のときに起こった大きな震災でした。そのとき、東京にいましたが、関西方面の仲間や知人に連絡が取れない状況です。当時はまだ世の中に携帯電話がほとんど普及していない時代でした。携帯電話を持っていれば、最後に声が聞けたかもしれない、メッセージを受け取れたかもしれない、助けられたかもしれないという、私だけでなく多くの方々の「念い」がありその苦しみや悲しみを何とかしたいという「念い」がありました。いかに早く多くの方々に携帯電話を持ってもらうことができるのか? その「念い」を実現させるべく通信会社に就職し、さまざまな事業提案を行っていきました。
2000年には固定電話の数を超えて携帯電話が普及し、一家に一台の通信手段から一人一台となることが容易に想像できました。携帯電話を持っていてもつながらなければ意味がないので、次はエリアを充実させることへと、私の「念い」が移行していきます。そして、どうすればエリア拡充の予算が捻出してもらえるのか? を絶えず考え、事業計画へ反映させていきました。このように自分の「念い」と向き合っていき、プレゼンに落とし込んで伝えていったのです。
次に2つ目の相手の「念い」についてですが、やはり、孫正義社長(現会長)のプレゼンテー ションを企画したり、作成する機会に従事できたのは私の中でも格別でした。
世界を動かす孫正義社長の「念い」に向き合えるわけですから、「自分が孫さんだったら…」ということをただひたすら考える、向き合うことをする贅沢な時間を体験したわけです。何のためにこの事業を行うのか? どういった方々に伝えるのか? どのように表現すれば、より深く広く伝わるだろうか?
その「念い」を意識して資料を作成しました。
もちろん前述したとおり、企業においては「企業理念」が全社員共通の「念い」ですから、明確な答えが示されています。その「企業理念」に沿った文脈であれば大きく逸れることはありません。もし資料作成を行う過程で、「企業理念」が腹落ちしていない場合は、企業に所属していること自体が苦痛になるかもしれません。
過去、私は事業提案をする際に、「何を行うのか?」よりも「なぜそれを行いたいのか?」「何のために?」という「念い」が説明できないと、結果として相手に伝わらないという経験を何度も繰り返してきました。
つまり、自分自身がどうしたいのか? 相手はどうしたいのか? その「念い」と向き合い、 それを表現することがプレゼンテーションの肝となるわけです。
「念い」がなければ、外面だけよくても中身のないスカスカなものになってしまいます。どんなに上手に資料を作成しても、中身が伴わなければ、そのビジネスに他者が協力しようとは思ってもらえないはずです。
では、どういった「念い」が相手に響くのでしょうか? ビジネスシーンにおいては、社会に対するインパクトです。世の中を変えてしまうようなプロダクトやサービス、ゲームチェンジするような案件は、それを聞いただけでワクワクします。
そして最も重要なのは、提案者や事業者の念い=理念、ビジョンです。それがないとせっかくアクションを起こしても目標に到達することは難しいでしょう。
※当コラムは著書『ミニマム・プレゼンテーション』を基に補筆したものです。
前田鎌利(まえだ かまり)
書家/プレゼンテーションクリエイター、株式会社固(https://katamari.co.jp/)代表取締役。一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事。東京学芸大学卒業後、17年にわたりIT業界に従事。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、初年度第1位を獲得。2013年にソフトバンクを退社、独立。2016年、株式会社固を設立。ソフトバンク、ヤフー、ベネッセ、 SONY、JR、松竹、Jリーグ、JTなど年間200社を超える企業にて講演・研修を行う。著書に『ミニマム・プレゼンテーション』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『社内プレゼンの資料作成術』『社外プレゼンの資料作成術』ほか多数。

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