資料は文章で考える【スマート会議術第168回】

資料は文章で考える【スマート会議術第168回】ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社 コンサルタント 榊巻亮氏

資料作成の本といえば、「パワーポイントできれいに見せるデザイン」「図表のわかりやすい使い方」「一枚で収める企画書」「色使いのテクニック」など、資料の見栄えを解説したものが大半だ。しかし、『世界で一番やさしい資料作りの教科書』はそんな小手先のテクニックには一切触れていない。なぜならそれは資料作りにおいて枝葉末節なことだからだ。

では資料作りの本質とは何か? それは「資料を通して何を伝え、誰に伝え、何をしてもらいたいのか」という資料作りの目的が明確かどうかである。そして、本書が入社4年目女子の鈴川葵を主人公にした小説仕立てになっているのも、資料作りにおいてストーリーがいかに重要であるかを示すためである。

では、なぜ資料作りにはストーリーが必要なのか。ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズのコンサルタントである、著者の榊巻亮氏にその理由について語ってもらった。

目次

ストーリーは日常会話が成り立てばいい

――資料を作るうえで、大きく社内用に共有したり説得したりするための資料と、社外向けのプレゼン資料があると思いますが、作り方に大きな違いはありますか。
精度が全然変わってくると思います。社内だったら誤字脱字はあまり気にしなくていいですし、多少言葉がビジネス用語から離れていても問題ない。伝わればいいのでそこに時間とコストをかける必要はありません。社外の場合はそういうわけにはいきません。一字一句言葉に気を遣いますし、もっと短い時間で伝えなきゃいけないプレゼンになってくると、ストーリーラインは相当気をつけますね。相手が社内の人間だったら、文脈もある程度共有できているでしょうし、「汲み取ろう」と思って聞いてくれます。一方で、社外にプレゼンする場合は、全然文脈や背景を知らない前提で、物事を伝えないといけないでしょう。
――そういう意味ではストーリーはすごく重要になってきますね。
そうですね。ストーリーは社内であってもある程度は必要だと思います。外に出ていけば出ていくほど、文脈を知らない人に対しては特にストーリーを意識しないといけないですね。
――ストーリーを作るのはかなりハードルが高そうですが、映画や漫画みたいな面白い話を作るわけではないですよね。
ストーリーとは、すごくシンプルに言うと「文章で考えましょう」ということです。特にいまはパワーポイントの影響が大きいのですが、ほとんどの人が箇条書きで単語だけを並べ始めるんです。「現状調査」とか「分析の結果」とか。それは全然ストーリーじゃない。面白いストーリーである必要はなくて、単純に文章として日常会話が成り立てばいいんです。ところが単語が並べられているだけの資料では日常会話が成り立たない。文章をちゃんとつないで、話すように人に伝えられているかを確認すれば最低限は大丈夫です。資料上で日常会話をするイメージですね。でも、それすらできていない資料が山ほどある。
文章ができたら、この流れで伝えたときに、相手がどこに疑問を抱きそうか、どこが引っかかりそうかを考えて欲しい。体言止めはやめて文章でちゃんと書く。文章で書いたら読み直して、伝えたい相手が疑問に思いそうなところ、疑問に思いそうなところをピックアップして、そう思わないように構成を変えるという2点です。
僕は単純に日常会話、話す体、口語体で文章がつながっていればいいと思っています。次が気になる、聞かせてくれ、というストーリーとしての面白さじゃなくて、もっと単純に「現状こうなっていることがわかったので、次にこういう手を打ちたいと思っているんです。具体的には~」というのが口語体。だけど資料になるとなぜか、「現状の調査:~~~」「分析の結果:~~~」「施策:~~~」となってしまう。
これは、文章は短く、と言われてきた弊害だと思います。文字が多いと読まれないからできるだけ短く書けと言われた結果、単語しか書かなくなり、単語しか書かないから、何が言いたいかさっぱりわからなくなるっていう、本末転倒な状況に陥っているのかなと思います。

手書きでストーリーを

――たとえば、アマゾンでは会議資料はパワーポイントが禁止でテキストだけと言われています。箇条書きだとそれが独り歩きしたときに誰も理解できない。文章だけにしたら、そこだけで理解できるようにみんなが意識して書く。だからパワーポイントは禁止という話を聞きました。
その考え方に近いと思います。プレゼン用の資料で、箇条書きが乱発されるというのはまだわかるんです。なぜなら話す人がちゃんと補足するからですよね。前後の文脈をちゃんと文章として補足するから、箇条書きの資料でもコミュニケーションが成り立ちます。でも配られる資料で箇条書きや体言止めを連発されると、理解するのが大変です。だからアマゾンがそうやって文章で書くのは僕は理解できます。
一方で、アップルのプレゼン資料は文字がほとんどないですよね。使い方が全然違うんですよね。資料に人のしゃべりが入って、人のしゃべりは当然口語体で文章になっている。それをアマゾンの場合は、Wordが人のしゃべりを肩代わりする感じですよね。日本の会議資料の多くはその両方の悪いところをとって、カタコトの資料だけが配られ、口頭説明もたいしてせずに文脈もよくわからない。そういう最悪の状況かなと思います。
――言葉の補足がないスティーブ・ジョブズと文章の説明がないジェフ・ベゾスのプレゼンみたいになっていますね(笑)。
そんな感じなんですよ(笑)。いいプレゼンは文字数が少ないと言い出す人がいて、文字数を少なくしろということだけが独り歩きしている。アップルとアマゾンは両極端な事例なのでわかりやすいですね。普通の会社は、その両社の間でいいと思いますが(笑)。悪いところをとって単語だけの資料を流しているのに、たいして文脈を考えずに読み上げてしゃべっている。
――パワーポイントはそういう意味で悪者になることが多いですが、根本さえちゃんと押さえられていれば、パワーポイントだから悪いということではないですよね。
もちろんパワーポイント自体が悪いわけではないです。使い方が悪いだけ。ただ、間違いやすいテンプレートにはなっていますよね。パワーポイントは箇条書きで書けるようになっているので、ついつい箇条書きで書いちゃうんですよね。パワーポイントは箇条書きを推奨するフォーマットになっているので、どうしても箇条書きで書きたくなっちゃう。グラフとか図とか入れやすくなっているので、どうしてもそっちに意識がいっちゃうんですよね。見た目のきれいさにどうしても囚われてしまう。そうじゃなくて、まず伝えたいことは何かをベースにして書いてほしい。
ストーリーが大事なので、手書きでストーリーを書きなさいと言いたいです。ストーリーを手書きで書いてしゃべるだけで十分伝わるようになったら、もうプレゼン資料は作らなくていいと思いますよ。
――資料を作るムダな時間とコストを下げられそうですね。
そうです。ストーリーの先にはビジュアルがある。伝えたいことのストーリーが最初にあって、それを補うビジュアルがあるはずなのですが、パワーポイントを開くと最初からビジュアルに向かっちゃうんですよね。そこは良くないなと思っています。手書きだといきなりビジュアルには走りづらいので、そういう意味で僕は手書きのほうがいいと言っています。
パワーポイントは考えたことを形に落とすツールですが、考えるツールではない。考えた結果を落としてビジュアルにするためのツールなんです。考えるためのツールだと思っていたり、考える行程を飛ばして作ったりするからうまくいかない。「資料作成=パワーポイント」と最初から立ち上げて作り込むものだと認識されているのが問題だと思います。パワーポイントはあくまでも最後の成形ツールだと思わないとダメなんです。
――パワーポイントを使えば簡単に作れそうな気がしますからね。
そのほうが早い気がするんですよね。「いきなりパワーポイントで書き始めるのはやめましょう」と言うと、多くの人が「使わないとすごい時間かかる気がします」って言うんです。いきなり完成形を作り始めたほうが早いという幻想があるんでしょうね。僕はもともと建築家だったので、しっかり設計して材料を揃えて初めて建築に取りかかるという感覚が身についていますが、多くの人は図面も引かずにいきなり家を建てながら考えましょうという感覚になっている気がします。それは大工さんが「設計は建てながら考えます」って言うようなものですよね(笑)。

伝わる資料を組み立てる7つのステップ

――著書にある「伝わる資料を組み立てる7つのステップ」は資料作りに限らず、会議や仕事の段取りを進めるうえでも意識しておきたいルールが提示されていると思いました。
<伝わる資料を組み立てる7つのステップ>
1. 発散する
2. 主張と訴えを明らかにする
3. 受け手の状態を明らかにする
4. シナリオを組み立てる
5. ラフスケッチを描く
6. スライドにする
7. レビュー(一晩寝かせる)
この7つのステップはすごく当たり前のことを言っているんですよね。突飛なことはまったく言っていない。読む人が読んだら「当たり前ですね」って思う。だけどみんなちゃんとできていないし、気にもしていないステップを整理したものです。
――当たり前のことが実際やろうとするとできないのはなぜですか。
いきなり作ったほうが早いと思いこんでいる習慣でしょうね。7つのステップを見れば、ご自身が資料を作るときにどのステップを飛ばしているのか自覚できると思います。自覚できたなら、戻って、ちゃんと押さえるべきところを押さえていきましょうということです。もしくは部下から上がってきたものに対して、どのステップが押さえられていなくて、こんなひどいことになっているのかがチェックできるようにしたかった。そういうふうに使ってほしいんですね。7つのステップの全部を踏まなきゃいけないというわけではないけど、チェックシートであり、本来はこうあるべきだという見方で使ってもらえると嬉しいです。
当たり前ですが、ビジネスの基本はコミュニケーションです。コミュニケーションをせずに仕事をするのは不可能です。資料を作らずに仕事をするのも不可能。資料作りやコミュニケーションはあまりにも適用範囲が広いので、ごはんを食べるのと同じで普段あまり考えることはないかもしれません。会議だと「いまから会議します」と仕切るから結構意識が向きますが、コミュニケーション自体は日常であまり意識しない。だけどそこがレベルアップすることで、ぐっと良くなる余地がすごくある。普段からコミュニケーションしているといって油断せずに、基礎力を上げることに意識を向けてほしい。資料作りは生涯で考えたら膨大な数になるはず。その能力も上げられると、生産性は大きく変わってきますよということをお伝えしたいです。
――大前提のコミュニケーションの在り方を意識すれば、ムダな資料作りをしないで済むってことですね。
そうです。手戻りしまくってたいして使われずに、意味があるのかないのかもわからない資料作りをすることが、現代のビジネスパーソンはすごく多いと思うんですよ。何のために作っているんだろう、作る意味はあったのかと思いながら資料作りをするのはすごく不幸です。「手応えがある資料、誰かを動かすことのできた感触がある資料を作りたくないですか」ってことですね。ムダがなくて、いい仕事したなって思える資料を作れるようになれば、気持ちよく仕事ができるようになるんじゃないかなと思います。
――いまはコロナ禍もあって、オンラインで仕事をする機会が増えていますが、オンラインでのコミュニケーションや資料作りで意識しておいたほうがいいことはありますか。
基本的には、オンラインでもオフラインでもやることは変わらないと思いますが、オンラインになった途端に、ノンバーバルコミュニケーション(非言語)がぐっと減りますよね。ビデオが映っていればまだましですけど、それでも空気感や雰囲気は伝わりにくいし、人数が多くなると誰がしゃべっているかよくわからなくなってきたりする。姿勢とかしぐさとか、眉間のしわとか、そういうのが根こそぎなくなっちゃうので、より丁寧に「言いたいことは何か」「目的は何か」「してほしいことは何か」というのをちゃんと明確にしなければならない。
資料作りも同じで、対面でのコミュニケーションが減る分、きちんと伝えたいことは何かということを文章で考えていかないと伝えたいことが伝わらなくなる。直接コミュニケーションをする機会が減っているので、特別なことをするというよりは、基本をより守ることが重要なのかなと思います。

文・鈴木涼太

榊巻 亮(さかまき りょう)ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社 に所属するコンサルタント。
大学卒業後、大和ハウス工業に入社。建築士として住宅の設計業務に従事すると同時に、業務改善活動に携わる。大和ハウス時代に「変革に巻き込まれる」経験、「変革をリードする」経験。現場の立場でプロジェクトを推進することの重要性を実感。ケンブリッジ入社後は「現場を変えられるコンサルタント」を目指し、金融・通信・運送など幅広い業界で業務改革プロジェクトに参画。新サービス立ち上げプロジェクトや、人材育成を重視したプロジェクトなども数多く支援。ファシリテーションを活かした納得感のあるプロジェクト推進を得意としている。さまざまなメディアで「数字で現場を納得させる改革術」「抵抗勢力対策」「会議ファシリテーションの7つの基本動作」などの連載やセミナーなどの講演活動も多数実施。主な著書に『世界で一番やさしい 資料作りの教科書』(日経BP社)、『世界で一番やさしい会議の教科書』(日経BP社)、『抵抗勢力との向き合い方』(日経BP社)、『業務改革の教科書』(日本経済新聞出版社) など多数。

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