「共感する力」とは 「相手の気持ち」と寄り添うこと【第5回】

「共感する力」とは 「相手の気持ち」と寄り添うこと【第5回】株式会社モダン・ボーイズ 竹中功
 
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対等なコミュニケーションが大切

相手の気持ち、すなわち受け手の感情をどうやって感じとれるかは難しいところだが、そこは非常に大切なことである。

「選択権は自分にある」という感情は誰にでもある。ある意味、相手より優位に立ちたいという心理から来ているもので、逆にいうと「相手に選ばれると不快になる」「相手に時間の制約をされると耐えられない」という法則を覚えておけばいい。行列のできるラーメン屋には進んで並ぶのに、ファーストフードに買い物に行ってカウンターで待たされると少しの時間でも我慢できずに腹が立つことなどは、この例である。

「お客である私をこんなに待たせて!」という、自分の時間を相手にとり上げられる嫌悪感からの感情だ。自分の時間や思考を人にコントロールされるほど不快なことはない。

良いコミュニケーションでいうなら対等な立場で、共感し合えることが理想なのだ。にもかかわらず意思が疎通せず、一方的に命令をされたりすると気分が悪くなる。交渉もなく集合時間を決めつけられたり、何時間以内に仕上げろという命令も気分が良くない。ひと言、相談でいいので、気づかいの声がけがあれば大分と様子は変わるのに、である。

相手の立場に立って感じてみる

これは私の専門分野でもある「謝罪」でも同じことがいえる。私は吉本興業時代に広報の担当を長くしていて、幾度も芸人の不祥事の謝罪会見の現場をとり仕切った。その経験からいうと、事故が起こった時など、加害者が「これぐらい謝ったからもうええやろう」「もうそろそろ許してくれはるやろう」というのは大きな間違いである。答えを出すのは被害者であるのだ。

加害者が勝手に答えを出す時には謝罪は成立せず、泥沼にはまる。加害・被害者の関係にあるにもかかわらず、勝手に優位な目線でものをいうからダメなのだ。そうならないためには、自分本位に立つのではなく、相手の側に立った視点が大事である。相手の気持ちを察したら、どういう行動をとるかが見えてくる。

共感する時、その寄り合う距離や体温などをどのように伝えるかであるが、ここは敵対でも攻撃の対象でもないわけだから、好意を持って理解を求めてコミュニケーションをはかってみよう。相手の立場に立って感じることができているかをつねに確認してみるのだ。

相手の立場・気持ちを感じて共感しようとすれば、自分が本当に感じている本心に出会える。

先日もこんなニュースをテレビで見た。

万引きの多い店で、あまりにも困り果てた店主が、犯人らしき人物にモザイクをかけた写真を店頭に張り出した。抑止力となると考えたからだ。街の声を聞くと「写真の人物が間違っていた人ならどうするのか、人権蹂躙、人権侵害だ」という声と「私が店主だったらそうするでしょうね」という声に分かれた。報道機関だから双方の意見を流すといったところからだろう。

万引きされる被害者の感覚からすれば、万引きは許せないので、いまできる防止策はこれだったのだろう。どちらの意見も正しいと思う。大切なのは、相手の立場に立って感じてみてほしいということだ。そうすれば答えが見えてくるように思う。まぁその前に、「万引きをするな!」と大きな声でいいたい。ちなみに私が釈放前指導教育で通う刑務所の受刑者の3分の1は窃盗や万引き犯だ。

寛容さが大切である理由

共感して相手に寄り添うには「寛容さ」が大切だ。

吉本興業勤務時代には吉本新喜劇の担当をしたこともあるのだが、お気に入りのギャグがある。オールバックの髪型で、真っ黄色のスーツを着た借金取り役のアキのギャグだった。

舞台に登場したアキは、相手の茂造じいさん(辻本茂雄)に向かって、

「早う、借金を返さんかい!」と大声でとり立てる。

茂造じいさんは返せるお金がないのだが、何度も何度もアキに詰め寄られた挙句、たまらなくなった茂造じいさんが「すいません!」と大声で謝罪する。

そうするとアキは突然、優しい声で「いいよぉ」と許してしまう。

周りが「いままであんなに怒ってたやん」などというと、アキは「おじいさんがああやって謝っているんだから、いいよぉ」と許してしまう。

この「謝罪」と「寛容」のキャッチボールのギャグが私は大好きだ。

聞くところによると、小中学校の生徒の間では、このギャグのおかげでいじめが減ったともいわれている。その場ですぐに謝ることと、それをすぐに許すという行為が、とてもメリハリが効いている。ギャグを真似て楽しむことによって優しさがとり戻されるのもいい。

笑いの持つ、そんなパワーを借りることで「共感」を得ることができるギャグといえよう。

吉本新喜劇では、デブやちび、ハゲなど身体の特徴をネタにしたギャグが多く、よく学校関係者や親御さんからクレーム電話があり、叱られたこともあったが、このように相手が詫びた時に、「すぐに謝っているのだから許してあげよう」という、謝罪を寛容に受け入れる「いいよぉ」というギャグで吉本新喜劇が褒められることになるとは、思いもよらなかった。

そんなちょっとした言葉のキャッチボールといえばそれまでだが、「いいよぉ」と許す心が育まれ、いじめが減ってきたといわれたらこれほど嬉しいことはない。

竹中 功(たけなか いさお)モダン・ボーイズ
株式会社モダン・ボーイズCOO。同志社大学卒業、同志社大学大学院修了。吉本興業株式会社入社後、宣伝広報室を設立。よしもとNSC(吉本総合芸能学院)の開校や心斎橋筋2丁目劇場、なんばグランド花月、ヨシモト∞ホールなどの開場に携わる。コンプライアンス・リスク管理委員、よしもとクリエイティブ・エージェンシー専務取締役、よしもとアドミニストレーション代表取締役などを経て、2015年退社。現在はビジネス人材の育成や広報、危機管理などに関するコンサルタント活動に加え、刑務所での改善指導を行うなど、その活動は多岐にわたる。著書に『謝罪力』(日経BP社)、『よい謝罪 仕事の危機を乗り切るための謝る技術』(日経BP社)、『他人(ひと)も自分も自然に動き出す 最高の「共感力」』(日本実業出版社)がある。

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