「現在・過去・未来」から見るプレゼンテーション

「現在・過去・未来」から見るプレゼンテーション一般社団法人プレゼンテーション協会 プレゼンテーション研究所所長 奥部諒氏
*写真は今年3月6日のセミナー開催時に撮影したものです。

会議HACK!がメディアパートナーとして参画する一般社団法人プレゼンテーション協会。その協会内にあるプレゼンテーション研究所が、11月22日(日)に「日本の若者に“伝える”ことが苦手というだけでチャンスを失ってほしくない」という思いのもと、Presentation Fes 2020@Onlineを開催する。

ビジネスセミナーのように堅苦しい雰囲気ではなく、Fes(フェス)のようにラフな感じでし、若い人たちに「伝える」ことに興味を持ってもらえるように企画した。

Presentation Fes 2020@Onlineを開催するにあたって、プレゼンテーション研究所の所長を務める奥部諒氏に今回のイベント開催の想いについて語ってもらった。

目次
Presentation Fes 2020@Online

どんなアイデアも世に出ないと意味がない

――プレゼンテーション研究所が設立されて11月でちょうど1年が経ちます。研究所の主な役割についてお教えください。
母体のプレゼンテーション協会は、それぞれのプロフェッショナルの方々の知見を伝えていくことがメインとなっていますが、プレゼンテーション研究所は情報の収集、分析、考察といった、もう少し客観的な情報を発信していくという位置づけになっています。
――この先、具体的にやっていきたいと考えていることはありますか。
まずプレゼンテーション研究所を、「伝える」「プレゼンテーション」といったテーマに関する情報の発信源にしたいです。その手段のひとつとしてメディア化できたらと考えています。
もうひとつは、自分たちでも独自のデータ収集をしていきたいと思っています。プレゼンテーション協会の会員企業さん向けに、意識調査やグループインタビューを実施させてもらったり、市場のデータ、実際にプレゼンテーションをやられたり、聴講されているユーザーの声を収集したりするなどしたいですね。いまはまだ規模は小さいですが今後どんどん広げていきたい。
――奥部さんは長い間、プレゼンテーションカンファレンスのTEDxにも関わっていましたが、今後TEDxのようなイベントをやっていきたいと考えていますか。
個人的にはすごく関心は高いです。どんなアイデアも世に出ないと、良いものなのか悪いものなのかの判断もできないですよね。思っているだけでは存在しないに等しい。良いアイデアだと思っていても、人前に立って話してみたら、じつは全然良くないことだったかもしれないし、逆にすごく受け入れられるかもしれない。でも、それは人前でプレゼンテーションしてみないとわからない。そういう人の考えていることやアイデアを評価の土台にあげたいというのが僕の興味関心です。アイデアをシェアできるような場はやっぱりあったらいいなと思いますし、自分も関わっていきたいなと思っています。
ただ、プレゼンテーション研究所として行うかどうかは考えていません。
――これまでプレゼンターをサポートする立場として、プレゼンテーションに関わってきて良かったと思うのはどんなときですか。
たとえば大学を卒業してすぐにドイツでフリーランスとして働いた友人がいるのですが、「フリーランスはある程度社会で能力とか経験とか人脈を培ってからなるものだ」って、親も含めて誰にも賛同されなかったと言っていたんです。でも彼女は「サラリーマンにはなりたくない」って、そのままドイツに飛んで自力で頑張ってビジネスをやっていた。
その彼女に僕がオーガナイズしていたTEDxに登壇してもらったんですけど、そこで自分の思っていることをちゃんと言語化して、人に発信してもらいました。その後、彼女のプレゼンテーションを見た親や友だちが連絡をしてきて、「あの当時はあなたの言っていることは甘いと思っていたけど、やっとあなたの価値観ややりたいという思いがわかった」って言われたそうです。
これは僕にとってはまさに成功例です。そういった「自分を伝える場」が必要だなと実感しましたね。しゃべること、発信することによって、自分の価値観をとりあえず伝えてみないと誰にもわからない。自分の周りにいなければ、自分の周り以外のところに発信しないと賛同者は見つからないので、そういったプラットフォームは必要だと思っています。
――プレゼンテーションをするにあたって、彼女から「こう伝えたい」といった要望はあったのですか。
そうですね。最初はまず「何をしゃべりたいのか自分で原稿を書いてみてください」ってお願いしました。みなさんそうですけど、原稿を読むとだいたい言いたいことがわかってきます。彼女はたぶん自分の「フリーランスになるんだ」っていう生き方を、「へぇ~そうなんだ、どこで? ドイツで? そうなんだ、頑張ってね」と当たり前のこととして認められたかったというのがあったと思うんですよね。新卒で大手企業に就職したって言えば「そうなんだ。おめでとう!」ってなるじゃないですか。それぐらい当たり前のこととして受け入れられたかったようです。
ただ、それがきれいに言語化されていなくて、とりあえず自分の思いを原稿に書いたみたいな感じで、いろいろな情報や感情が入り混じっていたので、実際に彼女に問いかけてみて、「僕はこういうふうに読みとったんだけど、こういうことが伝えたいの? それとも僕の見方は違うの? どうなの?」と内容をつめていきます。そのような議論を通じて、強調すべきことを強調するように原稿とかスライドを修正、デザインして、プレゼンテーションをどんどんブラッシュアップしていきました。

TEDx*
世界的に知られるプレゼンテーションカンファレンスであるTEDのローカルコミュニティ、イベント。その精神を受け継いだカンファレンスが世界各地で開催されている。。TEDxカンファレンスの運営は、TEDとは独立しており、TEDとは異なるイベントと位置づけられるが、本家同様に「Ideas Worth Spreading」のコンセプトのもと、それぞれのアイデアを紹介する場として機能している。

ラジオを聴くように気軽に参加してほしい

――プレゼンテーションフェス(Presentation Fes 2020@Online)はどんなコンセプトになるのですか。
開催理由のきっかけとして、コロナでは若い人たちを取り巻く状況がガラッと変わってしまいました。たとえば大学生ならこれまで授業は学校に行って受けていたし、就活も直接面談をしていたのが全部オンラインに変わっちゃって、すごく不安だと思うんです。オンライン上でどうやって自分を評価してもらったり、売り込んだりすればいいのか、わからないのは不安だろうなってい思いがあったんです。ただ、コロナはきっかけで、そもそも若い人たちがプレゼンテーションに触れたり、学んだりする機会がないんじゃないかというのは前から思っていたんです。
就職してプレゼンテーションをする機会があれば、失敗して初めて「あ、プレゼンテーションを学ばなきゃまずいな」となる。でも、社会に出てから何年か経たないと、プレゼンテーションに関心を持つことはないし、プレゼンテーションの練習や勉強をする機会ってあまりないと思ったんですね。そういったときに、若い人たちがプレゼンテーションに対して、何か興味を持つような催しものができないのかなって思ったのが開催の背景です。
プレゼンテーションフェスは、プレゼンテーションに対する問題提起というよりは、もう少し気楽に「伝えるって何だろう?」みたいな話をする場にする感じです。
どうやってプレゼンテーションをするという話はプレゼンテーションに興味ある人にとっては面白いと思います。関心や危機感のない人に向けて、ビジネスの世界で長くやってこられて、いろんな壁に当たってそれを乗り越えてきているプロフェッショナルの方々に「伝える」をテーマに苦労した経験や失敗した経験、それをどう乗り越えるかという話を中心にしてもらおうかと思っています。
――コロナ禍、オンラインでのプレゼンテーションが増えていますが、オンラインとオフラインでプレゼンテーションの仕方に違いは感じられますか。
少なくともいまの段階ではZoomのようなオンラインのプレゼンテーションは、オフラインの対面プレゼンテーションを代替しないと思っています。単純な情報を提供するようなプレゼンテーション、つまりセミナーとか大学の講義とか、普通に板書するような講義は情報伝達するという意味においてテクノロジーさえ揃っていれば、基本的にオンラインでも問題ないと思います。
でも、相手に意思決定を促すとか、ビジネスとして新しいがゆえに、ビジネスモデルは合理的でお金を稼げるかもしれないけれど、これがユーザーに受け入れられるかわからない。ちょっと不確実性があるようなビジネスを提案をする。資金調達をするとなったときには、まだまだオンラインでは難しいと思っています。
――その違いを生み出す溝となるものは何でしょうか。
やっぱりオンラインでは感情が伝わりにくいと思います。情報は情報なので、オンラインでしゃべろうとオフラインでしゃべろうと、同じことをしゃべれば情報としての質は同じだと思います。でも、そこに付随している話し手の感情だったり雰囲気だったり、共有している空間からもたらせるものはオンラインだと伝わらない。これが伝達、共有できないのは大きいかなと思っています。
――今回のフェスで、「現在・過去・未来」という3つのテーマを設けていますが、それぞれどんな内容のお話が聴けるのでしょうか。
「現在」では、中学生であり、社長をやっている方にに、いまやっていることをプレゼンテーションしてもらう時間になります。いまやっていることがあって、人に伝えたいものがある。世に出したいこと、伝えたいことがある方です。そして、今はは伝え方にすごく迷っている段階だと思うんですね。
どうやって伝えれば伝わるのか、そもそも自分のアイデアをどういうふうに言語化すればいいのか悩んでいる状態だと思うので、そういった同年代の若い人がプレゼンを人前でやっていることに、まず親近感を持って見てほしいというのが「現在」のセッションです。同時に、話す側にも自分と同じ世代や普段関わりのない人に自分の活動や考えを伝える場にしてほしいです。
「過去」では、いまプレゼンテーションが上手いビジネスで成功している人たちは、どういう苦労をしてきて、どうやって乗り越えてきたのか、「過去」の話をしてもらいます。彼らも最初から上手だったわけじゃなくて、そのときの状態は「現在」でプレゼンテーションをする若者と同じように悩んでいたはずです。ただ、彼らはいまビジネスで成功していて、プレゼンテーションが上手だと言われる。そういう人たちの話を聴いて、自分たちのいまの状態と比べてどうかというのを考えてもらいたいです。
最後に「未来」では、ターゲットである若い子たちが進む未来のプレゼンテーションを取り巻く環境はどう変わっていくのかをパネラーの人たちに話してもらいます。特にここでは新しいプレゼンテーションツールなど、面白い(interesting)要素を入れてちょっと近未来っぽい話をしてもらおうかなと思っています。
家でもVRでプレゼンテーションを練習できるような製品を開発している方、アルゴリズムを使ってプレゼンテーションを点数化してくれるようなシステムをつくっている会社の方、ARを用いたプレゼンテーションツールを使うことに長けた方が登壇されます。今後若い人たちが使って学んでいくうえで、ワクワクするようなツールの学習方法などを紹介してもらおうかなと思っています。
――最後にプレゼンテーションフェスに参加される方たちに、メッセージをお願いします。
日曜日の午後なので、家でのんびりラジオ感覚で流して聴いてもらえればいいと思っています。プレゼンテーションに関心のある人はしっかり聴いてもらえたら面白いですし、プレゼンテーションにまだ関心がないという人はあまり気負いせずに、「何かやってるわ~」くらいのテンションで入ってきてもらえるといいかなと思います。
将来ビジネスでバリバリやっていきたいと思っている人は、「過去」のセッション聴いてもらえると、すごく有名な2人が登壇するので面白いと思いますし、ビジネスには関心がないんだけど、新しいツールとかテクノロジーにちょっと関心がある人は「未来」のセッションを聴いてもらうとか。自分の興味がありそうなセッションだけを聴いてもらっても、いままで触れたことがないような内容だと思うので面白いと思いますよ。

《申し込み》

Presentation Fes 2020@Online
https://peatix.com/event/1652114/view

【日時】2020年11月22日(日) 13:00~17:00
【配信会場】情報経営イノベーション専門職大学
【視聴方法】Youtube Live (予定)/ Zoom (iU生:会場視聴あり)
【参加費】大学生・専門学生/iU学生/プレゼンテーション協会会員/一般:無料
【参加者】iU学生、一般学生、社会人、プレゼンテーション協会会員
【運営】一般社団法人プレゼンテーション協会

奥部諒(おくべ りょう)
東京大学大学院学際情報学府修了。プレゼンテーション協会オフィシャルパートナー、Logicool Spotlight Ambassador、国際系カンファレンスでの登壇者のプレゼンコーチ、代表等を経て東京大学大学院に進学。理論と実践の両方向からプレゼンテーションを探求している。2016年にTEDxYouth@Kobeの代表、2017年にはTEDxUTokyoの代表を務める。東京大学大学院在学中はプレゼンテーションをテーマに研究を行い、その傍ら、大手企業や行政の依頼でプレゼンテーションのコーチ、メンタリングを引き受ける。現在は、Fintech領域のPMとしてIT企業で働きながら、(社)プレゼンテーション協会の活動を行う。
一般社団法人 プレゼンテーション協会
一般社団法人 プレゼンテーション協会は「社内プレゼンの資料作成術」「プレゼン資料のデザイン図鑑」(ダイヤモンド社)などの著者で、年間200社以上に講演・研修を開催する前田鎌利氏が設立し、2019年11月よりビジネスや教育現場でのプレゼンテーションスキルの向上および普及を目的とした団体。ビジネスパーソンをはじめ、ご自身が伝えたいことを相手に伝えるようにするために、多くの参画企業と共に日本のプレゼンテーションを高めるためのスキルの普及・啓発を行います。
HP:https://presen.or.jp/

文・写真:鈴木涼太

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