オンラインだからこそ求められる「文字、視覚、聴覚、ノンバーバル」【スマート会議術第141回】

オンラインだからこそ求められる「文字、視覚、聴覚、ノンバーバル」【スマート会議術第141回】東京女子大学教授 橋元良明氏

今年、東京女子大学の橋元良明教授を中心に、コロナ禍における緊急事態宣言前後の人々の情報行動や意識の変化について分析が行われた。調査対象は全国の15歳から69歳の男女で有効回答数は3170票。その中にはテレワークによってビジネスパーソンは何を感じ、何を得たのかについても尋ねている。

果たしてテレワークはビジネスの何をどう変えたのか、また何を変えなかったのか? テレワークに必要なコミュニケーション術はあるのか?

メディアコミュニケーションを専門とする橋元良明教授にコロナ禍時代の働き方、コミュニケーションのあり方についてお話を伺った

目次

リモートワークの定着には社会の意識改革が求められる

――橋元先生が中心になって実施されたアンケート調査「緊急事態宣言で人々の行動・意識はどう変わったか?」を拝読しました。テレワーク(遠隔勤務)が進んだこの半年足らずで仕事の生産性は「減った」が34.39%、「増えた」が8.7%、「変わらない」が53.6%という結果でした。生産性は何を基準に判断しているのでしょうか。
業種によっていろいろ違いますけど、売上げ、業績、その他ですが、テレワークをやっているから業績がどうこうというよりも、もっと大きなコロナ禍という状況がありますよね。だから果たしてテレワークが原因で業績が上下したかって判断は難しいんじゃないでしょうか。生産性もやはり主観的なもので、これで上がったか下がったか厳密には測って客観的に評価するのは難しいと思います。
――個々人の主観的な実感と考えてよろしいですか。
はい。実際、みんな在宅勤務ができる条件が整っているわけではありません。共働き夫婦であれば両方ともリモート会議が重なったらやる場所がない人も多いです。そういう環境で実際「俺が優先だ」「おまえの会議はあまり重要そうではないから、電波が少々届きにくいが、あっちでやってくれ」とか、そういうトラブルが出ているという話も聞きます。
それから、仕事とプライベートの切り分けが難しいですね。そういう意味で通勤しなくていいけど、精神的な疲れはたまっていくんじゃないでしょうか。もし子どもがいたらやっぱり邪魔されるでしょうし、旦那が在宅勤務になって「じゃあ家事やってくれるんだな」って喜んでいたら何もしない(笑)。「あなただって家にいるじゃない。結構暇そうじゃないの。なんで皿洗いもしないの?料理しないの?」ってね。結構トラブルがある家庭も多いので、やっぱり会社に行くほうがいいなって思っている人も多いんじゃないでしょうか。
――一方で自由な時間が増えた、家族との会話が増えたといった前向きな回答も多かったです。全体を俯瞰してみて、今後どういう方向に進むことを望んでいると予測しますか。
業種によって違ってくるとは思います。IT関係とか、アウトソーシングや外注ができるような企業は在宅勤務のほうがメリットは大きいですよね。社員にとっても通勤時間は要らなくなるし、オフィスも縮小できる。光熱費などいろいろ節約できるし、備品も少なくて済む。そういうところはメリットが大きい。それぞれ自分の仕事で決められたことをこなしていけばいいので、どんどん進んでいくと思いますね。
しかし、仕事を決めてそれに従って淡々とこなしていくような企業はそんなに多くはありません。アメリカのジョブディスクリプション型で、「あなたの勤務はこれですよ」って決めて、それをこなしたらあとは自由でいいよといった形でやる企業は少ない。「あなたの仕事はこれですよ」っていうよりは、チームで動いているところがほとんどなので、そうすると在宅勤務は限界があるので、かなりの部分がもとに戻っていくと思います。
――ジョブディスクリプション型は日本の企業文化に馴染まないという考え方もありますが、今後変えていかなきゃいけないのでしょうか、それとも無理に変える必要はないのでしょうか。
グローバル社会の面から考えると変えていかざるを得ないと思います。しかし、それは社会全体で変えて労働的な職場の流動性が担保されていないと難しい。辞めても次に行くところがないとか、受け入れてくれる会社がないとか、そういうことがあるので、もっと社会全体の職場流動性が高まらないと、いまの状況では難しいですね。
――終身雇用制が崩れてきたとはいえ、企業という組織に守られているがゆえに、企業が家族的にチームでやってくっていうほうが主流ということですか。
そうですね。ただ、先進的なIT企業をはじめ、グローバルに展開しているところはどんどん変わっていっているので、そういった企業は目算があると思います。ただ、いわゆる従来型の勤務体系でメンバーシップ型雇用を優先しているような企業や、中小企業でオールラウンドプレーヤーを求めているような会社、「総務や人事をやって会社のことが一通りわかって初めて一人前だ」というような考え方の企業は結構多い。それが大半だとすればなかなか変わらない。要は労働者、勤労者の意識ですよね。アメリカとは違って「転職といってもそんなに自分は能力もないし、会社が雇ってくれたら一生面倒見てよ」っていう人は結構多いと思います。全体的には変化は急に表れないと思いますね。

ノンバーバル情報が削られるオンライン

――コミュニケーションにおいて、オンラインでノンバーバル(非言語)はどんな影響がありますか。
Zoomをはじめとしたビデオ会議システムでは顔が見えるとはいえ、ノンバーバルな部分かなり端折られるんですよね。上半身は見えているものの、「この人はここまで自分の話に興味持っているのか」「賛同しているのか」「アホらしいと思っているのか」、手の動きや顔の表情でわかるノンバーバル情報が見えづらい。ビデオ会議システムは顔は映るけれど細部は見えなかったりすることも多いので、やはりノンバーバルの情報が削られてしまうんですよね。
心理学で言うソーシャルプレゼンス(人間の存在感)が非対面によってだんだん下がっていくんです。その存在感があって初めて、お互いの信頼性を維持するのに役に立つんですよ。この人は信頼するに値するとか、そういうのを体感で感知して話すのですが、ビデオ会議だとその部分のプレゼンスを端折っちゃうので、相手をどのくらい信頼していいのかという情報を十分に把握できないんじゃないかなと思います。
それから話しているときの間の取り方ですね。対面だと手の動きや唇の動きですぐに話そうとしているんだなとか、なかばシンクロ状態になって、あうんの状態でわかるのですが、オンラインでは時間的にわずかのズレがあって、間の取り方も難しくなる。Zoomでやっても、やっぱりズレることがありますね。テレビ中継で距離による微妙な時間の遅れがあるから海外から中継したら露骨にズレますよね。それは国内で普通にZoomでやっていてもあります。
――最近は、講談師の神田伯山のラジオがすごく人気があったり、サッカー選手の本田圭佑が運営するネットでもラジオのような「NOWVOICE」が出てきたりと、音声だけのコンテンツ発信が増えている印象があります。音声だけの情報発信は、相互コミュニケーションというより、一方的に伝えることに馴染んでいるのでしょうか。
それはコロナ禍やテレワークによるメンタル面での疲れの問題もあると思うんですね。私たち人間はサルと同じで森の生活から出発しているので、視覚がすごく発達していて、脳の半分が視覚情報の処理に費やされています。聴覚信号は視覚情報ほど重要じゃなかったから、使うのはせいぜい大脳の4~5%で鈍感なんですね。処理能力も低い。視覚の処理能力は抜群なので、映像だけだったらテレビ2台でも3台でも同時にパラレルで処理できるんだけど、聴覚情報は処理能力が低いから、基本的にリニアで1つしか対応できない。違うラジオ放送が同時に2つ流れたらそれだけで処理できなくなるんですね。
逆に言うと、音声は頭を働かさなくてもいいんですよ。頭の半分以上を休めることできるんです。だから重要な情報を聴き漏らすまいとしている状況じゃない限り、ラジオはのんびりだらりんと聴けるんですよね。そういう意味では心が休まる。テレビだとずーっと見ていると脳の半分以上が全開で、ぼーっと見ていても頭を働かせていますので疲れるんです。だからラジオは癒しや安らぎを求めて復活しているのかもしれませんね。
重要なことだったら別でしょうけど、たまには頭を休めたいってこともあるのではないでしょうか。
人類は基本的にはこの世の中に現れて以来ずっと音声言語のコミュニケーションが中心だった。それが紀元前3500年ぐらい前に文字ができて、そこから音声を視覚化して、あとはどんどん視覚情報のメディアが発明されていく。写真や映画が出てきて、テレビが発明されて現代に至るんですが、人類史を眺めてみると、視覚情報である文字が現れたのってごく最近なんです。25万~40万年ぐらいのホモ・サピエンスの歴史を1年に換算すると年末なんですよね。
人間は音声の処理能力は低いけれど、感動とか心に訴えかける力はものすごく強いんです。たとえば演説とかやっぱり迫力ありますよね。「原発は反対!」っていくら論理的に字で書いたって言ったって、「そうか、こんなこと言ってる人もいるな」ぐらいだけれど、演説で小泉純一郎氏が「自民党をぶっつぶせ!」って言ったのはインパクトがありましたよね。具体性は何もないのに(笑)。ヒトラーの演説でもそうです。やっぱり声の演説というのはものすごく影響力があるんですよ。そういう意味で音声はそれなりに力があるので、そういう音の時代というのがもう一回見直されてきているのかもしれません。
――オンラインのコミュニケーションでは視覚的要素が語られることが多いですが、音声について語られることはあまりないですね。
「私はお腹がすいている」と声で伝えても時間がかかって、内容的にはちょっとの情報しか処理できないけれど、たとえば恋愛感情とか人を驚かすとか、そういう感情面では音の力ってすごく強いんですよね。だから恋愛感情がもつれたときに、LINEで「ごめんね」っていっぱい書くより、生の声で「ごめんね」ってひと言言ったほうが伝わってコロっと許す気になったりするわけですよね(笑)。内容はなくても、感情を動かす力は大きいんです。やっぱりじーんときますもんね。それは進化心理学的にも、12分の11以上、人間はほぼ音声コミュニケーション1本でやってきたっていう積み重ねです。ビジネスでは論理的にいろいろ説得して理解してもらわなきゃいけないから、文字、視覚、聴覚、ノンバーバルなものも含めていろいろ使ったほうがが細かいところもよく伝わりますよね。間違いがない、仕事を効率的に伝えるんだったら音だけでは不十分ですよね。ミスも多いし。
――最近、SNSによる炎上や誹謗中傷が社会問題化していますが、これも文字だけによるコミュニケーションによる弊害なのかもしれませんね。
対面で話すとノンバーバル面も見えますが、文字だけで表されると伝わらないことが多いんですよね。極端な例が「お前本当に利口だな」でも「バカだな」でもいいんですが、ニコッと笑いながら言うと、「こいつ冗談で言ってるんだな」とか「皮肉で言ってるんだな」とか補足してわかりますよね。場面によって言葉の意味が反転することもありますが、文字だとそういうノンバーバルな面で緩和したり補足したりすることが難しく、中身だけとって「何だこのやろう!」って言葉尻をとってやり合ったりしますよね。
言葉、特に文字はコミュニケーションしたいことのほんの部分なんです。一部分、部分集合で言葉プラスアルファして、ノンバーバルも含めてもっといろいろなことを伝えていて、文字のコミュニケーションはほんの一部分しか伝わらないってことですよね。
橋元良明(はしもと よしあき)
東京女子大学現代教養学部教授。東京大学情報学環教授を経て2020 年より現職。専攻はコミュニケーション論。京都府京都市生まれ。東京大学文学部心理学科卒業。1982年、同大学院社会学研究科修士課程修了。東京大学新聞研究所助手、社会情報研究所助教授、教授、2000年に情報学環教授。2020年退職。専門は情報行動論、コミュニケーション論。情報行動の変遷と社会への影響、メディア利用が青少年に及ぼす影響等について研究を進めている。主な著書に『背理のコミュニケーション』『ネオデジタルネイティブの誕生』『メディアと日本人―変わりゆく日常』など多数。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

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