24時間365日、会議をしています。【スマート会議術第15回】

24時間365日、会議をしています。【スマート会議術第15回】Smappa! Group 会長 手塚 マキ氏

新宿・歌舞伎町を拠点にホストクラブやバーを経営するSmappa!Group(スマッパグループ)の会長・手塚マキ氏。
19歳でホストを始め、20代後半からはホストクラブを経営、ボランティア団体や書店を立ち上げるなど、積極的にホストのセカンドキャリアを考える活動を行ってきた。

手塚氏にとって、「会議」とは何か? そもそもホスト業界に「会議」なんてあるのだろうか? 手塚氏は、「会議では人の問題しか話さない」と語る。日頃から会議の効率化や短縮化を探るビジネスパーソンにとって、「人の問題」とは、当たり前でありながら、つい見失いがちな核心なのかもしれない。

第1弾は、会社の成長戦略、人材育成の面から見た「会議」のあり方について、お話を伺った。

目次

「人として成長する」ために始まった事業

――Smappa!Group(スマッパグループ)の事業についてお教えください。
ホストクラブ5店舗、バー5店舗、美容院2店舗を歌舞伎町内で経営しています。歌舞伎町ブックセンターはもともとバーとして運営している店舗を利用して本屋として営業しています。
――今後、事業をどのように展開していきたいと考えていますか。
今後については、僕があまり考えられることではないかな。もちろん、売上も人も増えていったほうがいいと思うんですが。
僕自身、20代で小さなホストクラブの経営から始め、当時から一緒に働いている仲間たちが今でも社内に結構たくさんいます。歳を重ね、家族が増え、キャリアアップを求めていかざるを得ない人も増えてきています。だから、今は「会社を大きくしていかないと」という段階にはなっています。
ただ元々、「事業を大きくするぞ!」という意気込みで始めたわけではなかった。社是も「人として成長する」と掲げているくらい。「唯一無二の面白い居場所である」ことをすごく大事にしてきました。

会議とは「精神的な衛生状況を常にチェックし合う場」

――「人として成長する」という点で、会社でのコミュニケーションはどのように図っていますか。
もちろん、みんなで集まって会議のようなことはしますが、そのなかで話し合うのは、ほとんど「人の問題」だけですね。働く彼らが今どういう精神状況なのか、ということに尽きます。
社内では、各部署をホスト部、バー部、美容部などと呼んでいるのですが、たとえば、ホストクラブ事業を行うホスト部だと、ホスト全員が選手でタレントなんです。みんな、精神状態がすごく重要です。モチベーションの状態を常にみんなで見ています。ホストの仕事は精神的にすごく磨耗するんですよ。自分自身が日々値札をつけられる仕事なので。
コーヒーを売って、売れなければ「コーヒーが悪い」って言えるけど、自分を売っていて自分が売れないと、やはりへコむんです。売れたとしても、ときには自分が男娼的な気持ちになってしまうこともあれば、それで自己嫌悪に陥ることもある。
さらにお客さまの話を聞くうえで、ホストは、よりお客さまに同感することが求められます。けれど同感すればするほど、お客さまが抱えている悩みや苦労を自分が背負ってしまうこともある。ミイラ取りがミイラになるような感じです。
逆に「俺は人の気持ちなんて関係ないぜ、イエーイ!」なんてやっていたら、それはホストとして失格なんです。そのさじ加減がすごく難しい。なので、精神的な衛生状況を常にチェックし合うシステムが必要になるんです。
会議でトップダウンで言うよりも、身近にいる人たちが、どれだけちゃんとその子たちのことを見て、日々の些細な変化に気がつける距離にいるかっていうのが大事なんです。

何かを始めるために集まるのではなく、集まった人の居場所を用意する

――従業員のケアと育成が軸になって、結果的に会社が成長していくと。
そうですね。一緒に働いている人たちがどうやって生きるかを考えたうえで、「この場所がある」って思えることが重要なんです。「みんなで何かをやろう!」って号令をかけて集まるということではなく。
そもそも新宿(歌舞伎町)という街がそうなんです。いつのまにか流れ着いちゃったみたいな場所なんですよ。元々ホストをやりたくて生きてきた人なんてあまりいない。何かができなくてホストをやるとか、会社が嫌で始めるとか。すごく夢を持って来る場所ではない。僕自身もそうでしたし。
会社は継続していかないと食べていけない。それは理解しつつ、どれくらい成長させていけばいいのかなっていうことは考えています。だけど、成長を目的にして過剰にワーッと事業展開をしていこうという計画ではない。

「ちゃんとした水商売」であるために

――そのためにもSmappa!Groupが、「唯一無二の面白い居場所である」ことが重要だと。
そうですね。グループ事業に美容院があるのも、たまたまホストのヘアメイクを担当していた子が「店をやりたい」って言ったので始めただけで。さらに、そこで働いていた子が「マツエクのお店をやりたい」って言ったので、アイリッシュサロンを始めました。
――社内起業ですね。
そんな感じですね。やりたいことがあったら、会社としてサポートしてやっていければいいと思っています。
――今後何が出てくるか、予想がつかない楽しみもあると思いますが。
そうですね。ただ、これまでホスト上がりの人間が経理や人事や本屋をやってきたんですが、もっと成長していくにはやはり限界があります。だから外からその道のプロを雇っていきたい。でも、「水商売の会社」という見方をされるので、キャリアがある人が入ってきづらい環境なんですよね。
「LOVE」をテーマにした約400冊の蔵書が並ぶ歌舞伎町ブックセンターの本棚。本は「情熱的な愛」の赤、「官能やファンタジーの愛」のピンク、「ダークな愛」の黒と3つのカテゴリーに分類さあれている。
――歌舞伎町ブックセンターができたときは話題になりましたが、ブランディングの意味が強かった?
はい。歌舞伎町ブックセンターを立ち上げたのは、従業員の教育という意図はもちろんありますが、人材確保という理由が大きかったですね。本屋が儲かるとは最初から思っていませんでしたし。会社のブランディングとして、「水商売だけではなく一企業としていろいろなことをやっていますよ」っていうことを世に知らせる必要があったんです。
それで、「奇抜な面白いことをやっている会社なんだ」って思ってくれて、クリエイターやマネージメントをしたいという人が入ってくれればいいなっていうのが、歌舞伎町ブックセンターを始めた一番大きな理由です。
――歌舞伎町ブックセンターでは、週末にホストの方が書店員として対応されるそうですが。
ホストクラブ5店舗の中から交代で出勤してもらうようにしています。当番になったホストが決まった時間にお店に来て、書店員として接客するまでにも、ちょっと時間がかかりましたね。でも、実際に本に触れてみたり、本屋に来たお客さんと話をしたりすると「意外に楽しかった」って言う子が出てくれて。「じゃあ俺もやってみようかな」って、みんな交代で出てくれるようになりました。やはり「面白い居場所」でないと、人の成長は難しい。「会議で決まった」と言っても、みんな聞く耳をもたないですから(笑)。

上司と部下の関係ではなく、全員がメンター

――会議では常に「人」が議題ということですが、会議以外でも人の育成やコミュニケーションにおいて心がけていることはありますか。
ホスト部ではメンター制度を導入していて、必ず誰かが誰かを見るようにしています。誰も置き去りにしないように。それをちゃんと吸い上げつつ、決まりとして「いつまでに報告してね」と。「ちょっとあいつが今、調子悪いみたいです」「あいつが悩んでいるみたいです」っていう話は、小さな店舗でも毎日のように繰り広げられています。「売れれば何をしてもいいんだろ」って言う子もいる。その場その場で話を聞いてあげて解決していく。
たとえば、A店の店長が、そこのホストの悩みを聞いて、悩んでいたりすると、その店長にはまた上司がいるんですよ。要は、店舗に属さないホスト部の社長と、それに付随する副社長みたいな人がいて。そこに情報が上がって大体は解決する。結局、会長の僕に話しても、何の解決にもならない。より近くで解決しないといけない。
彼らにとっては、会社から「君は会社にとってすごく重要な人間なんだよ」って言われることよりも、日々触れている人たちにとって必要な人間であることが大事なんです。自分が今ここで存在価値があるのかっていうことが百倍重要だから。
――メンター制度というのは、経験の豊富な人が、若い人を見るという組み合わせですか?
年齢や経験はあまり関係ないですね。みんながちゃんと誰かを面倒を見るという体制であれば、あとは現場の判断に任せています。絶対に放置しないということです。あとは、問題解決するのは身近にいる仲間だっていう認識をもたせています。
感情的になってミスをすることが、すごく多い。お客さんとの揉めごとなんて大体そうなんです。男と女の揉めごとなんて、他人から見ればどうでもいいことじゃないですか。それに似ています。感情が関わることだから、「問題を解決するのは仲間」というステートメントもあって、必ず近くにいる仲間が解決できるようにしています。

LINEでの報告が15分間に66件(笑)。

――ホストの世界はスポーツの世界と同じで、毎日ストレートに結果が求められますね。そのぶん、普通のオフィスワークでは想像できない緊張感がありそうですが。
そうですね。だから「報連相」は徹底しているかもしれません。ふだん社内でのやり取りはLINEで行っています。個人はもちろん、LINE内で部署だったり、店舗だったり、イベントだったり、細かいグループに分けて、そこに関係ある人たちがグループの中で「報連相」をしています。今も話している15分間に、LINEでの報告が66件(笑)。
あとは、どれだけ仲間の変化に気づけるかっていうのを大事にしている空気が社内にはありますね。だから、みんな日々懇親会をしていますよ。
「ちょっとあいつと話そう」みたいな日々のコミュニケーションが、たぶん世の中で言う会議なのでしょう。そういう意味では、365日24時間体制で会議をしているのかもしれませんね。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

手塚 マキ(てづか まき)Smappa! Group
ホストクラブ経営者、JSA認定ソムリエ、歌舞伎町振興組合理事。1977年生まれ。1997年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストを経て、現在はホストクラブ、BAR、飲食店、美容、歌舞伎町初の書店など十数軒を運営するSmappa!Group会長を務める。また、歌舞伎町振興組合理事としてまちづくりにも携わり、表と裏から歌舞伎町の過去、現在、未来を最も知る人物である。ホストの教育や人間的成長を大事にし、マナー講座や資格取得、家族への感謝を伝えるプラットフォームの立ち上げなどを行う。ボランティア団体「夜鳥の界」を発足し、歌舞伎町のゴミ拾いなど地域活動も実施中。著書に『自分をあきらめるにはまだ早い 人生で大切なことはすべて歌舞伎町で学んだ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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