会議とは「一座建立」である。【スマート会議術44回】

会議とは「一座建立」である。【スマート会議術44回】株式会社固 代表取締役 前田 鎌利 氏

全国で年間200を超えるプレゼン・会議の企業研修・講演をこなすプレゼンテーションクリエイターの前田鎌利氏。

ソフトバンク・孫正義氏の後継者育成機関であるソフトバンクアカデミアで、初年度第1位を獲得。孫正義氏に直接プレゼンして幾多の事業提案が承認され、孫氏のプレゼン資料作成も担当。2013年ソフトバンクを退社し、2016年、株式会社固(かたまり)を設立。

書家としての顔も持ち、Jリーグ「絶対突破」、ソフトバンク「志高く」など多くの書を揮毫。全国15校650名を超える書道塾も経営する。

また、『社内プレゼンの資料作成術』、『社外プレゼンの資料作成術』、『最高品質の会議術』など、著書は累計18万部を超えるベストセラーとなる。そんな前田鎌利氏に、プレゼンの極意と最高品質の会議術について、お話を伺った。

目次

「念い」があれば、必ず伝わる

――前田さんは著書やインタビューなどでいつも、「おもい」を「念い」と表現されていますが、これにはどんな意味が込められているのですか。
普通に、田んぼの「田」に「心」の「思い」は、頭で考えるという意味で使います。木を見る心の「想い」は、何か対象物を見て、ふっと心に浮かぶ感情や、そのときの気持ちを表すんです。
「念」という字は、絶えず今、自分の心を支配している強い気持ちのときに使うんです。「信念」とか、「念願」とか。「企業理念」にも強い気持ちを表す「念い」が入っているんですね。
会社として何かを発信するのはすべて理念。その理念が具現化したものが、サービスだったり、プロダクトだったりします。そこに「念い」が入っているのは当たり前なんです。会社が好きで、その会社に惚れているか。もしくは、その創業者に惚れて、そのプロダクトが好きか。だからこそ、みんな理念教育を一所懸命やるんです。
腹の底から「この仕事はやりがいがある」とか「本当にやりたい」と社員が思っている会社は強い。その気持ちは、頭で考える「思い」やパッと出てきた感情の「想い」よりも、「念い(おもい)」の方なんです。
強い気持ちをいかに大事に伝えられるかというのが、一営業マンにしても、一社員にしても持たなきゃいけないところだと思います。
――会社として「念い」がしっかりあると、現場での会議とかプレゼンも、自ずと伝わるということですね。
伝わっていくと思います。逆にそれがないと難しいですね。いま企業が採用するときって、コミュニケーションスキルが高い人を採用する傾向が強いんです。でも、コミュニケーションスキルが高い人が入ってきても、みんな「コミュニケーションがうまくとれない」って悩むんです。それは、コミュニケーションのスキルが低いんじゃなくて、コミュニケーションをとる時間が足りないだけなんです。

ブレストは「7±2」が基本

――アイデアを出す企画会議を上手に進めるコツはありますか。
心理学者のジョージ・ミラーが提唱した「7±2」という法則があるのですが、これは人間の短期記憶の容量が「7±2」であることを意味しています。会議でブレストをやるときにも、人数は「7±2」、つまり5人~9人ぐらいが適切だということです。それより少なくても、いいアイデアが足りなかったりして、10人を超えてしまうと多すぎて収拾がつかなくなる。「7±2」だったら、限られた時間で、より多くの意見を求めるには十分過不足なく出てくる。僕も経験則から、これくらいが一番いいと思っています。
――集めるメンバー構成は、どのようするのが適切ですか。
ブレストは、いろいろなセクションの人を集めてやる場合もあったり、内々でちょっとやったりするものもあります。課題がどこまで波及するかによって、どのメンバーをアサインするかがすごく大事ですね。
アイデアって、誰に声をかけてやるかで結構決まると思うんです。「あの人はアイデア出ないな」っていう人を呼んでも出ないですし。「この人はいつも発想が独創的だな」とか、「この人を呼ぶと面白そうだな」とか、誰をアサインするかはすごく重要だと思います。
プロジェクトをやるときは、まさにそうですが、「誰を呼んだら最後まで責任を持ってやれそうか」っていうメンバーを拾うときもあれば、初期のプロジェクトのメンバーは、「アイデアマンだけを集めたら面白い」とか。それによってメンバーをちゃんと選ぶということです。
――そうするとメンバーが固定化して、呼ばれなくなった人の底上げができなくなってしまうこともありませんか。
時間軸が短いものと長いもので、メンバーを変えてもいいですね。アウトプットまでの時間軸が短いものは、ベストメンバーでとか。もう少し中長期的に見たブレストなら、いろいろなメンバーを呼んでアイデアを出させる。

アイデアはKJ法で強制的に出させる

――アイデア出しや発言が苦手な人をうまく生かす方法はありませんか。
KJ法*を使うと、アイデア出しが苦手な人でもだいたい出してくれますよ。少なくとも5~6個は出してくれます。KJ法を使って、まずは自分の意見を出す。出して、集約していくと安心感も出てくる。「あ、自分と同じ意見だ」と。「ちょっとこれはないな」という希少的な意見も、否定しないで取り上げてあげるとボトムアップにつながります。
アイデア出しのときは、僕はいつもKJ法を使います。逆にKJ法を使わないと出てこないことが多いですね。出ないというか、サボる。「言わなくてもいいかな」と。KJ法を使って「最低何個出してね」って言ったら、最低何個かは考えるんです。「最低何個」って言わないと、ゼロでも「すみません、考えたんですけど思いつきませんでした」で逃げられちゃうので。
限られた3分間で、5個出すなら5個出す。出せない人なら事前に考えて持ってくるってしないとアイデアなんて出てきません。また、書いて出した内容が否定されないという環境をちゃんと作ってあげていけば、自信がついてくるので、ちゃんと発言できるようになります。
*KJ法
1カ所に集められた多くの情報に対してグルーピングや文章化してアイデアの創出を実現させる創造性開発技法の1つ。考案者である川喜田二郎氏の頭文字からKJ法と名づけられた。

出たアイデアには、意見を言うのではなく、質問をする

――著書『最高品質の会議術』に書かれていた「Q&A会議」というのも、KJ法と同じ発想ですか。
そうです。Q&Aをやることで、自分が考えたアイデアをさらに深堀りすることができていくんです。たとえば、あるアイデアに対して意見を求めると、どうしても「いや、これは良くないんじゃない? このほうがいいんじゃない? ああだこうだ」ってなる。意見をずっと聞いて結局、「じゃ持ち帰って考え直します」となってしまうんです。
でも、「このアイデアに対して質問をしてください」とすると、「これはどういう意味ですか?」「これはなぜこうなんですか?」という質問が出てくるだけなんです。質問する人がどう思っているかはどうでもいいんです。質問だけをぶつけてもらう。それに対して答えていく。「いろいろな質問をくり返して、最後に「内容はだいたいわかったけど、こういう要素があったらもっと面白いかもね」っていうアドバイスをもらいます。
よくあるのは、出したアイデアに対して、ひたすら批判されると、最終的には、批判した人のことを嫌いになるんです(笑)。「うるさい! 俺がせっかく考えたのにお前はケチばっかりつけやがって」となっちゃう。
ムダに長い時間が設定されていると、本当に辛い仕打ちみたいになってしまうので。限られた時間でサラッとやる。そのあとネチネチ言われないようにするのが一番いいと思います。

会議とは成長の場である

――前田さんの考えるスマート会議とは何ですか。
僕はいつもワークショップで、「会議は成長の場」という話をするんです。会議は部下の育成にも使えますし、自己啓発にも使えます。僕は会議をどうやって成長の場として生かせられるのかを考えて、会議をデザインしています。ただ単に「この会議はこれを決めよう」じゃなくて、決めるプロセスで、「誰をどういうふうにしてあげよう」とか、「取り上げてあげよう」とか考えながらデザインしていきます。
サラリーマンの生涯労働時間はだいたい10万時間と言われますが、そのうちの4万時間を会議に使っているんです。4万時間を成長の時間に充てられると、かなりスキルアップも図れるし、成長できると思うのです。
会議が「成長の場」であるという意識をみんなが持てると、いい時間を過ごせると思います。会議は、いろいろな人間観察ができて、いろいろなことを知ることができて、違うタイプの人のいろいろなスタイルを学べる場です。それが僕にとってのスマート会議です。

主客共に一体感が生じるほどいい場にする

――会議はやり方次第で、すごく学びの環境にできるということですね。
そうです。「一座建立」ってよく言うんです。「一座建立」は茶道の言葉なんですが、「主客が共に一体感が生じるほどの良き場にする」っていう、茶道の心構えなんです。
お茶を点(た)てる側も、いただく側も、その場を良き場にしようと思ってお茶をいただこうと、その空間を作り上げるんです。「一座」というのは、その場所。「建立」というのは、立ち上げるという意味で、一緒に立ち上げる。
会議もまさにそうで、「呼んだから」とか、「呼ばれたから」っていうので、呼んだほうが偉いわけでもなく、呼ばれたほうが偉いわけでもない。
「その限られた30分をいいものにしよう」という、お互いの気持ちがないと、メールを見たり、内職をしたりする人が出てきちゃうんです。「いい場を作る」というお互いの気持ちがあれば、いいものになるんですけど、そういう気概があまりにもない。
「一座建立」の念(おも)いがあれば、学びの場にもなるし、成長する場にもなる。有効な4万時間に切り替えるためには、「一座建立」という念(おも)いがすごく大事だと思います。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

前田 鎌利(まえだ かまり)株式会社固
プレゼンテーションクリエイター/書家。一般社団法人 プレゼンテーション協会 代表理事、株式会社固 代表取締役。東京学芸大学卒業後、17年にわたりIT業界に従事。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、初年度第1位を獲得。2013年にソフトバンクを退社、独立。2016年、株式会社固を設立。
200社以上の企業・団体などで講演、企業研修などを行う。著書に『社内プレゼンの資料作成術』『社外プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『最高のリーダーは2分で決める』『最高品質の会議術』がある。

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