どんなに難しいことでもわかりやすく伝えなければならない。【スマート会議術第73回】

どんなに難しいことでもわかりやすく伝えなければならない。【スマート会議術第73回】プレゼンテーションクリエイター/書家 前田 鎌利 氏

営業、コンペ、プレゼン、交渉、会議、社内調整…。ビジネスシーンでは、「人に意思決定してもらうスキル」が常に求められる。そのためには「どれだけわかりやすく伝えるかが肝心」と前田鎌利氏は語る。プレゼンテーションクリエイターとして、さまざまな企業でプレゼン講師を行う前田氏にとって、「わかりやすく伝える」とはどういうことか。

前田氏はソフトバンク・孫正義氏の後継者育成機関であるソフトバンクアカデミアで活動。数多くの事業提案で孫氏のプレゼン資料作成も担当。2013年に独立し、いまや年間200を超えるプレゼン・会議の企業研修・講演をこなす。一方で、書家として全国10校700名を超える書道塾も経営する。

この4月、『プレゼン資料のデザイン図鑑』を上梓。なぜいま、あえてデザインにこだわったのか。その背景にはどんな狙いがあったのか。わかりやすく伝えるために、デザインはどんな役割を果たすのか。人に意思決定してもらうためにはどうすればよいのか。前田鎌利氏にその極意を伺った。

目次

ビジネスにはインパクトと情報量のバランスが求められる

――『プレゼン資料のデザイン図鑑』は、どういう経緯で出版されたのですか。
社内プレゼンの資料作成術』『社外プレゼンの資料作成術』という本を2冊出していたのですが、「作り方はわかったけれど、具体的にどうやって作ればいいのかがいまいちわからない」というお話をいただくことが多かったんです。
会社によって企業文化もさまざまなので、本来その企業文化に合わせたカタチでカスタマイズをしなければいけません。しかし、すべてのパターンを網羅してお伝えする機会がなかなかなかった。だから、もう少しわかりやすく、ビジュアルで直感的にパッと見てわかるものが必要だと考えました。
BeforeとAfterで具体的に提示すれば読者の方も、これを見ながら、「自分のやり方はこれだから、こういうふうにすると確かに見やすくなるなあ」と直感的に理解していただける。資料を作る時間をなるべく減らしてもらいたいというのが、今回出版に至るきっかけでした。
――これまでプレゼン資料の作り方について書かれた本の多くは、「一枚にまとめる何とか」といった理屈ばかりで、ビジュアルには無頓着なものが大半です。
見せ方を提案しているのは、ガイ・レイノルズ氏の『プレゼンテーションzen』くらいでした。
『プレゼンテーションzen』は、ビジュアルにすごく特化していて、メッセージ性もすごくシンプルにそぎ落としている。どちらかと言うと1対多で、より多くの人に伝えるときの補助資料として背景に飾られるイメージのプレゼンがメインだと思うんです。
一方で、日本企業は昔からたくさんの情報量をインプットすることで、ある程度腹落ち感を持たせる。そのためには、情報量がたくさんあったほうが納得感を持てるし、 さらに上の方への説明責任というものも満足させられることができる。なので、なるべくたくさん情報量を詰め込むことが多かったのだと思います。
いまは働き方が変わってきて、限られた時間で決めなきゃいけない、スピードに追いついていけない。そうなったときに、どこまで情報を理論武装するかという点で、昔ほど余裕がなくなってきた。
意思決定をする人は早く意思決定ができても、準備するほうは追いつかなくなってきている。その追いつかない状況の中で、どういったものを精査して、わかりやすく伝えることができるか。そこに、ある程度マッチさせるのがこの本の狙いです。
『プレゼン資料のデザイン図鑑』は、TEDや『プレゼンテーションzen』のような見せ方ありきのスタイルと、日本の昔ながらの説明ありきのプレゼンの中間みたいな存在だと考えています。

プレゼン資料にはツッコミどころを残しておくのも大事

――一『プレゼン資料のデザイン図鑑』は、Before・Afterで構成されていますが、Beforeはいわゆる悪い例です。なぜ現実にはBeforeのような例が多いのですか。
フォントがバラバラだったりすることもそうですが、伝えたい本人が「こうやったらより強調して見える」「変化をつけたほうが見やすい」と思ってやられていると思うんです。
斜体にするとか、下線を引くとか、それで強調しているように本人は思うのですが、実際はそうやって下線が入るだけでも、余白が減るので圧迫感が出てきますよね。余白を意識しないで詰め込むという文化がずっと続いてきた。そういう意味では、 「ここに入れるなら、もうちょっと細いフォントのほうがいっぱい入るな」とか。詰め込むということをすごく重視してきた。
――情報量が多いほうが価値があるというのが前提になっているからですか。
そうですね。あとは元々モノクロの印刷しかできなかったというのもあります。
モノクロの印刷で強調するとなると、赤とか青とか強調する色が入れられないので、下線を引くとか、斜体にするしかなかった。 あとはフォントを大きくするというものしかなかった。それがあって、ずっといっぱい書き込むというのが多かったと思います。いまはそれがなくなってきているので、下線もないほうが見やすいですし、スッキリするし、余白も取れる。 そういうふうに変わってきているとは思います。
――見せ方、プレゼンの仕方、資料の作り方が時代に合わせて変わってきているということですね。
はい。とはいえ、企業文化もさまざまです。企業によってA3一枚にまとめるのをよしとする文化も当然あります。紙で印刷して配るところの資料の作り方と、スライドを投影しながら説明されるプレゼンの仕方でやはり資料構成は変わってきます。 まだまだ全部がデジタル化にシフトしたわけではないので、ちょうど過渡期だと思います。
意思決定をする方々の年齢も少しずつ若手にシフトしつつあるので、昔ほどたくさんの情報量をベースにしながら判断したり理解したりする文化ではなくなってきている気もします。
――情報が多ければ説得材料として充実しているとは言えないですか。
資料をシンプルにまとめることによって、足りない情報が出てきているとは言えます。足りない情報に対して「どうなっている?」と聞かれたときに、的確に補足資料を出せるかどうかのスキルのほうが求められてきていると思います。
いままでは、何が出てくるのか、どれを聞かれるかわからないので、全部突っ込んでいるというのがほとんどです。そうすると、説明するのにとても時間がかかって、決裁者も「いいから結論を早く言え」と言う方が多い。
そうすると、絞り込んだ状態で見せて、聞かれたことに対して、「これもあります。これはこうです。こうです」と見せていくことによって信頼度が増していくんです。そのときに出せるものがないと、やり直しになりますので、出せるものがあるかどうかがすごく大事なポイントです。 結果的に持っている。持っているんだけど見せない。見せる必要がないということだと思います。
――相手に何だろう?と興味を持たせて質問をさせるように誘導するわけですね。
そうですね。でもそれは結構高等テクニックで、駆け引きみたいなところがあるんです。全部パーフェクトにすると「気に食わない」って言う決裁者もいます。「完璧すぎて嫌だ」とか(笑)。人なのでしょうないですけど、そういう人もいるんです。
多少抜けていると、「ご指摘ありがとうございます。この部分はこういうふうに考えていまして。でも、いまのご意見を踏まえてそうしたいと思います」と言うと、「だろ?(笑)」って納得してもらえる。そういう方もいらっしゃる。 僕らも決裁者を見て、その人がどういうものを見せられるとGOをかけやすいのかとか。社内の場合は事前に把握をして相手に合わせてやるようにするといいと思います。

イメージしやすい比喩を使って説明する

――セミナーに参加すると、文字だらけのスライドと専門用語のオンパレードで、オーディエンスがみんな居眠りしているのをよく見ます。
ありますよね。
――そのときに、もっと誰もがわかる言語で伝えるというのはやはり難しいものでしょうか。
なるべく何に置き換えられるかをイメージする訓練をするといいと思います。
この商品を果物に置き換えるならバナナが適切なのか、オレンジが適切なのか、リンゴが適切なのかをちょっと考えるだけでもいいんです。 北米で作られている商品なら、北米を想起できる果物のほうがイメージしやすいので、南国の果物よりも北米の果物のほうがいいとか。
この訓練をずっと続けていると、どんなに難しいものでも、ある程度簡単に変換して伝えることができるようになってくるんです。
――比喩というのは、プレゼンの大きなカギを握りますね。
そうです。孫さんのプレゼンでもよく比喩が使われたりするんです。彼自身も難しい言葉を難しく伝えない、小学生でもわかる言葉に置き換えるということをよくやられます。それもソフトバンクの文化かもしれないです。
――比喩を考える習慣をつけると、自ずと表現はわかりやすくなっていくのですか。
そうですね。僕は大学が教育学部で、元々学校の先生になりたかった。いまは並行して子どもたちに書道を教えていますが、小さい子に難しく伝えてもまったく伝わりません。 子どもたちでもわかるように伝えるにはどうしたらいいかと考えるんです。そういった発想の仕方がビジネスの場でもすごく生かされている気がします。
書道の教室をやるときに、僕が40年かけてやってきた筆づかいとかお手本の見方を数時間ではなかなか伝えきれない。たとえば、書で黒い線を書きます。でも生徒さんはお手本の黒い線を見ながら書いても手本に似ないんです。 どちらかと言うと、黒い線で囲まれている白い形の余白をどう見せるか、どう似せるかというふうに伝えたほうが形が似てくるんです。その見方1つを伝えらえるかどうかで全然違ってくるんです。
羽田空港 Powerloung常設展示 「心」/前田鎌利 書
これから飛び立つその前に、心を整え、心に強い念い(おもい)を宿し、飛び立っていただきたい。全体の構図を両翼を広げた飛行機をイメージ。
――現在のビジネスでは、1つの会社で単純に何かを考えて作っていくのは難しくなってきて、コ・クリエーション(共創)や多様性の必要性が叫ばれています。
はい。特に社内だけで成果を出していくのがすごく難しくなってきています。
いろいろな企業とコラボレーションをして、外と組むことで売上げを伸ばすとか、成果を出すということがかなり加速度的に増えてきていると思います。
そうなったときに共通言語がある程度ないと、どこを向いて走っているのかもずれてきてしまう。そこはすごく大事なポイントになってくるかと思います。

相手が何人だろうと、伝える相手が人であることに変わりはない

――会議室でのプレゼン、大勢の人に向かってのプレゼン、資料として回されるプレゼンで、作り方が変わってくると思います。それぞれの作り方、説明の仕方はどう変わってきますか。
営業をするときや上司を説得するときのような1対1で話をするときは、ある程度データなどのエビデンスがしっかり入っていないと理解もしてもらえないし、納得もしてもらえません。
1対多になると、なるべくビジュアルを多くして、相手の右脳を刺激するようなプレゼンにします。そうしないとオーディエンスはすぐに飽きて眠っちゃいます。
あとは話の仕方も、1対1で話をするときと、1対多で話をするときでは変わってきます。1対1の場合は目の前の人だけに語りかける。1対多の場合は多くの人をしっかりと捉えて、みんなの目を見ながら伝える。声の張り方もそうですね。下を向いてボソボソと資料を読み上げていても絶対に相手に届かない。
多くの方を相手に話をするときは遠くを見てお伝えしないと、やっぱり後ろまで届かない。どんなマイクを使おうが、何をしようが、リーチできないと思います。
1対1であっても1対多であっても、人に伝えることに違いはないので、それぞれどちらにも難しさはあると思います。1対1の場合だと、相手の反応って、その場ですぐ見られる。つまらなそうだなと思ったら切り替えて、インタラクティブな質問もやり取りできる。同じ1時間を話すにしても、 なんとなく間が作れたりするんですけど、1対多の場合は、インタラクティブ性がなかなか取りづらいですね。
多くの方に質問を投げかけても反応がすごく冷めているときもあります。逆にギュッと掴めるときもあります。中に頷いてくれる人が何人かいたら、その頷いている人たちとアイコンタクトを取って、その中でインタラクティブにやり取りをしているように持っていく。
――1対1と1対多で難しさに違いはありますか。
1対多はある程度場数を踏んでいないとできないと思います。1対1で話をする機会は小さいときからある程度やっていますよね。家族であったり、友達であったり、恋人であったり。1対1のシチュエーションはたくさんあるので経験を踏んでいるんです。
でも1対多は、学校のクラス30人ぐらいを超えた人数は、実はあまり経験していない。100人とか200人の前で話をする経験が豊富にある人はあまりいません。
そうなってくると、1対多というのは、自分が経験していない人数はちょっと恐怖が起きてくる。ある程度の慣れは必要です。
羽田空港 Powerloung常設展示 「集」/前田鎌利 書
成し遂げたい一つのことに集中してそびえ立つ軸を持つ姿をイメージして。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

前田 鎌利(まえだ かまり)株式会社固
プレゼンテーションクリエイター/書家。一般社団法人 プレゼンテーション協会 代表理事、株式会社固 代表取締役。東京学芸大学卒業後、17年にわたりIT業界に従事。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、初年度第1位を獲得。2013年にソフトバンクを退社、独立。2016年、株式会社固を設立。
200社以上の企業・団体などで講演、企業研修などを行う。著書に『社内プレゼンの資料作成術』『社外プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『最高のリーダーは2分で決める』『最高品質の会議術』がある。

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