ディスカッションは、インプットとアウトプットを同時にやる知的なスポーツ【スマート会議術第55回】

ディスカッションは、インプットとアウトプットを同時にやる知的なスポーツ【スマート会議術第55回】議論メシ代表兼コミュニティデザイナー 黒田 悠介 氏

ダイバーシティ(多様性)、アジャイル(俊敏性)、コ・クリエーション(共創)、オープンイノベーションなどの必要性が叫ばれる現代のビジネス社会。

そんな時代、企業とフリーランスを結ぶディスカッションコミュニティが誕生した。その名も「議論メシ」。2017年11月にスタートし、現在はフリーランスだけでなく、会社員、経営者まで職種を問わず約180人の会員が登録する。会員から月額4000円を集め、クライアントである企業には無償で議論の場を提供する有料会員制コミュニティだ。

「議論メシ」のメンバーは、企業やNPO等のオフィスに赴き、ディスカッションを行う。クライアントは東急電鉄、日経新聞、NTTドコモのような大手企業から、クラウドワークスやチャットワークのようなベンチャー企業までさまざまだ。

そんな「議論メシ」を主宰するのは黒田悠介氏。自らも「ディスカッションパートナー」として、新規事業を抱える企業の“壁打ち”の相手を務める。黒田氏はなぜ、あえて無償でディスカッションを提供するのか。その経緯と狙い、そして未来のビジョンについて語ってもらった。

目次

行動心理学からマーケティング、そしてキャリアカウンセリングへ

――「議論メシ」はどんな経緯で生まれたのですか。
大学で心理学を学んで、それを生かせる職場ということで、最初はマーケティングの会社に勤めました。そこで新規事業の立ち上げをやって、26歳のときに一度自分で会社を立ち上げました。
――心理学はマーケティングにどのように生かせるのですか。
行動心理学に、「人がどうしてこういう行動をするのか」ということを科学的に扱うアプローチがあるって、それをうまく活用するとマーケティングに生かせるんです。
――そこからどのようにして現在のディスカッションパートナーにつながっていくのですか。
起業した会社は業績も伸びていて面白かったのですが、優秀な若手がなかなか採れなくて売却することにしたんです。なので、スタートアップに若い人がもっと集まる状況をつくったほうが日本経済全体のためになると考え、学生とスタートアップをつなぐような会社に改めて入社しました。
そこで、学生にキャリアカウンセリングをしていたときに「フリーランスってどうですか?」という相談が結構あったんです。就職や起業の相談には答えられるのですが、「フリーランスってどうですか?」という質問にうまく答えられなかったんです。これはまずいと思い、自身でフリーランスを実体験してみようと思い立ったんです。それがフリーランスになった動機です。
30歳で独立して、「ディスカッションパートナー」という肩書でフリーランスになりました。「ディスカッションの相手をする」という仕事は結構ニーズがあったわりに、そういうビジネスをやっている人がいなかったので、すぐに仕事が入ってくるようになりました。でも、自分一人では受けきれない量になってきたので、組織化したほうがいいと思ったんです。
――そこから「議論メシ」が生まれるのですね。
映画『アベンジャーズ』みたいなイメージを描きました(笑)。「議論メシ」は、最強のチームをつくって、いろいろなタイプのディスカッションを受けられるようにしようと思って立ち上げました。最初に声をかけて集まったのが8人で、2017年11月から始めて、現在メンバーは180人ぐらいになっています。

無償でディスカッションを提供する狙い

――企業からの相談があって、ディスカッションパートナーとしてビジネスが成立しているのですか。
最初はそうでしたが、いまは企業さんには無償でディスカッションを提供しています。企業さんには場所と時間とテーマだけをもらって、私たちが企業に訪問してディスカッションの提供を無償でやっています。
――マネタイズはどうやっているのですか。
「議論メシ」の会費です。ディズニーランドの入場料みたいな感じで、月額4000円を払ったら、その中でどんな活動をしていてもいいという感じですね。コミュニティの中で人がつながって、そこから各自が何かビジネスをやるのはOKです。
――会員になっているのは、フリーランスの方だけですか。
フリーランスに限りません。いまはフリーランス3割、会社員3割、経営者3割ぐらいという割合です。結構バランスが取れているコミュニティかと思います。
――「議論メシ」の具体的な活動内容をお教えください。
基本的に大きく2つあります。1つは企業とのディスカッション。たとえば、東急電鉄さんを例に挙げると、オフィスに伺って「2040年の東急田園都市線はどうなるのか」を6対10でディスカッションします。そういったディスカッションをいろいろな企業さんとやっています。
もう1つは「議論メシ」内でやる活動です。「議論メシ」のメンバー同士でお互いに問いを出し合って、それについてディスカッションすることも週に3回ぐらいやっています。
ディスカッションを通じて、人と企業がつながったり、人と人がつながったりしながら、仕事が生まれたり、新しいコラボレーションが生まれたりすることが起きています。
――なぜあえて企業から報酬をもらわないのですか。
理由はいくつかあるのですが、特に大手企業さんだと1円でもお金が発生すると、ハードルが高くなる。稟議を通したり、「実際にこれってやる価値あるんだっけ?」って、ディスカッションを2時間するだけでも、すごく時間がかかってしまうんです。なので、1円も取らず呼んでもらったほうが、話が早いということがあります。
もう1つの理由は、企業さんとディスカッションをやったあとに、その企業の人が「議論メシ」に入ってくれることがあるからです。そのほうが私としてはありがたい。お金をいただいて取引関係になるより、無償でやって恩義みたいなものを企業に感じてもらう。それで「議論メシと今後も何かやっていきたいので会員になりたい」と言ってくれたりするので。
そうなると、実際に新規プロジェクトに携わったような人たちがいるおかげで「議論メシ」自体も盛り上がるし、熱量が上がって活性化するんです。お金はいただいていないけど、会員になってもらったり、別のカタチで報酬としていただいているという感じです。あえてディスカッションで報酬をもらわなくてもいいという考えでやっています。
「議論メシ」の180人のメンバーを顧問にして、自分の事業を進めたいという理由で入ってもらうこともあります。企業とディスカッションをやるのは、お試し会みたいな感じですね。
「ディスカッションパートナーと話をしているとすごく事業が進むんだよね」ということが企業に認識されてきたら、それはビジネスチャンスだと思っています。職業をつくるために「議論メシ」をやっているところもあるので、それが認識されてきたら、一定の役割を果たしたことになりますね。

フリーランス、会社員、経営者…それぞれの思惑

――フリーランス、会社員、経営者で、参加者の中のモチベーションに違いはありますか。
あります。たとえば、フリーランスにとっては企業と接点が持てる場だったりするので、そこから仕事につながることも結構あります。営業の目的で使っている人も少なからずいます。
会社員の方は、主に会社以外の場で、自分の能力がどう生かせるのかを試す場として使っています。そもそもディスカッションという高度なスキルを高める場として使っている方が多いですね。
経営者の方は自分の事業について「議論メシ」に投げかけると、180人が顧問みたいな感じで参加して進めることができる。相談相手がそれだけいたら、心強いと思います。そういうふうに自分の事業を上手く進めるために使っている人もいます。それぞれ思惑が違いますが、全員がディスカッションをしたくて参加しているので、お互いの思惑がうまく一致しているんです。

「議論メシ」に求められる3つの条件

――「議論メシ」の会員に求める条件や資質など、期待していることはありますか。 
「フラット」と「ポジティブ」と「コラボレイティブ」の3つがあります。
まずフラットであること。自立した個人同士の対等な関係性を重んじます。なので、マウンティングするのはNGですし、先輩後輩もありません。横並びで水平な関係になりましょう、と言っています。
ポジティブという言葉は、「未来のことを考えましょう」というメッセージです。過去の原因を突き詰めるロジカルシンキングより、未来の可能性を考える。ポジティブな考え方や発言をしたいよね、と言っています。
あと、フラットであり、ポジティブであるうえで、コラボレイティブを掲げています。他者の言動を受け入れながら、積み重ねていく。そういう態度の人であれば基本はOKだと思っています。守ってほしいのはこの3つです。
目の前の人にどう貢献すべきか、この場の価値を最大化するにはどうしたらいいか、と突き詰めた結果、この3つの言葉に集約されました。

ディスカッションを通じて発見したこと

――ディスカッションの活動をされる中で、特に印象に残っていることはありますか。
最初はディスカッションって、アウトプットの場だと思っていたんです。過去の経験とか知見をみんなで出し合って、アイデアをつくっていくような場だと思っていたんです。でも、多くのメンバーが、「インプットの場でもある」と言っていたんです。他の人がどう考えるのかを見ながら、自分の考え方を相対化できる。インプットとアウトプットを同時にやる知的なスポーツみたいに捉えている人がいるんですね。それが意外でした。
あと、広い意味でのオープンイノベーションと捉えている人も結構多いです。これまでのオープンイノベーションは、企業と企業、スタートアップと大手企業が組むことが多かったんです。でも、それだとお互いの思惑があったり、共通言語があまりなかったりして、会話が噛み合わないことがある。BtoBのオープンイノベーションよりも、むしろ、自分たちがやっているようなB with C、企業と個人、もしくはコミュニティによるオープンイノベーションのほうが、実はうまく回るという捉え方をしているメンバーもいます。
――「議論メシ」のディスカッションでは、何か特別なルールはありますか。
「当事者性のいない問いは扱わない」ということくらいです。たとえば「アフリカの孤児をどうやったら救えるか?」といったディスカッションはやらないです。なぜなら、そこに当事者がいないからです。ここにアフリカの孤児や救済活動をする当事者に質問ができたらやります。でもいない以上、正論が飛び交うだけだったり、ニュースで聞いたような話しか出てこなかったりするので。そういう当事者性のない問いはつまらないし、前のめりにならないので扱いません。

議論と討論の違い

――「議論メシ」では議論が荒れたり、論点が迷走したりすることはありませんか。
ほとんどないですね。「議論」と決めたところに理由があるのかなと思っています。それが討論だったら、A対Bでどちらが強いか、どちらが正しいかというバトルになってしまう。逆に単なる雑談だったら何も起きない、つまらない会話で終わってしまう。議論って、「A案とB案があったら、より良いC案って何か?」という創発的なコミュニケーションなので、VS(対決)じゃないんです。人と人が向き合って対立するのではなく、課題に対して同じ方向を向いて横に並んでいる関係性です。
――悪い会議の典型は「俺が正しい、お前は間違っている」という1対1の論争になりがちですね。
「議論メシ」では、そこは明確に論争にならないように切り分けています。会社の会議では、役割がありますよね。「営業だから」「課長だから」「リーダーだから」と役割が存在しています。だから、何をフィードバックするかがブレてくる。本当は意見に対して言うべきなのに、突然役割について、「課長としてどうなんですか?」って言ったり、「お前はわかってない」と、人格を責めたりすることが多い。
そういう人格や役割と、意見をちゃんと分けて議論ができないと建設的な会議にならないと思います。人格を攻撃すると発言も滞ってしまいますから。

議論の質を高めるためにやるべきこと

――参加者が増えると、どうしても発言に積極的な人と消極的な人が出てきませんか。
それはあります。全員がアクティブになることは難しいですね。2割ぐらいが議論の真ん中にいて、6割が取り巻きで、外側に2割がいるみたいな感じでもいいと思います。ただ、それが固定化されるとまずい。中心の2割の人しか楽しくない状態だと良くない。それがちゃんと入れ替わって、行き来が自由にできる状況だといいと思っています。
「議論メシ」は、数を追うより質を高めるべきだと思っているので、闇雲に会員数を増やしたいという考えはありません。コミュニティの質は文化だと思っています。いかにコミュニティの中にいい文化をつくるかだと思っているので。
――具体的にどうやって質を高めていくのですか。
バウムクーヘンのつくり方と似ているんです。最初に芯が真ん中にあって、少人数で文化をつくる。文化ができてきたら、また1層増やしていく。少しずつ年輪を増やしていくみたいな感じで人数を増やしていくと、文化が崩れないイメージがあるんです。
これをいきなり大きな筒の中に入れて火を通すと、焼きムラができる。そうでなくて、層を少しずつつくっていくイメージです。徐々に年輪みたいに広げていくことが、文化が崩れないコツかと思っています。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

黒田 悠介(くろだ ゆうすけ)議論メシ
議論メシ代表兼コミュニティデザイナー。年間30社の新規事業立ち上げをサポートするディスカッションパートナーという肩書きで活動。2017年11月にディスカッションパートナーの普及と輩出のためにコミュニティ「議論メシ」(https://www.gironmeshi.net/)を立ち上げ、現在会員約180名となっている。

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