ジャズのように偶然性が生まれやすい場でありたい【スマート会議術第56回】

ジャズのように偶然性が生まれやすい場でありたい【スマート会議術第56回】議論メシ代表兼コミュニティデザイナー 黒田 悠介 氏

ダイバーシティ(多様性)、アジャイル(俊敏性)、コ・クリエーション(共創)、オープンイノベーションの必要性が叫ばれる現代のビジネス社会。

そんな時代、企業とフリーランスを結ぶディスカッションコミュニティが誕生した。その名も「議論メシ」。2017年11月にスタートし、現在はフリーランスだけでなく、会社員、経営者まで職種を問わず約180人の会員が登録する。会員から月額4000円を集め、クライアントである企業には無償で議論の場を提供する有料会員制コミュニティだ。

「議論メシ」のメンバーは、企業やNPO等のオフィスに赴き、ディスカッションを行う。クライアントは東急電鉄、日経新聞、NTTドコモのような大手企業から、クラウドワークスやチャットワークのようなベンチャー企業までさまさまだ。

そんな「議論メシ」を主宰するのは黒田悠介氏。「ディスカッションパートナー」として、新規事業を抱える企業の“壁打ち”の相手を務める。黒田氏はなぜ、あえて無償でディスカッションを提供するのか。その経緯と狙い、そして未来のビジョンについて語ってもらった。

目次

重要なのは1つの結論を出すことでなく、何が実ったかを相互に出し合うこと

――「議論メシ」は、具体的にどんな流れで進められるのですか。
オフラインでは、ミートアップの場が月に1回あります。テーマは予め決まっているわけではなく、誰でも参加できます。たとえば、20人が集まったら、20人にディスカッションしたいテーマを出してもらいます。出てきた20個に対して、みんなで投票をして、上位の3つについてみんなでディスカッションを進めます。1タームあたり30分や45分、トータルで2時間半ぐらいやります。
最終的に1つの結論を出すということはあまりしません。それぞれの頭の中で実った収穫物を、みんなで出し合います。そうやって全員の頭の中の考えを出し合うところが、「議論メシ」らしいところかもしれません。他の人の考えを聞いて、「確かにそういう見方もあるな」って知ってもらえたら、そこでコラボレーションが生まれます。

戦うのは意見であって、人ではない

――企業のディスカッションに参加して、課題になっていると強く感じることはありますか。
たとえば、人が集まるときに、すべて「打ち合わせ」とか、「会議」とか同じ名前をつけている企業さんが結構あるなと思います。会議の目的が「報告」なのか、「共有」なのか、「一緒に考えたい」なのか。そういうことを事前に決めておいて、そのつもりで集まったメンバーがいるならいいんです。会議名が、みんな「打ち合わせ」になっていると、「この会議でいったい何をするんだっけ?」とはっきりしなくて、ファシリテーションが難しいなと思うことはたまにあります。
そのテーマで参加したい人だけが集まればいいんです。「呼ばれて来ました」という人はいないほうがいい。参加しない自由がはっきりあるほうがいいと思います。「議論メシ」でもそういうふうにやっています。
――目的が明確でも、主導権が持てない若い人たちは、自由に発言するのはなかなか難しかったりしますよね。
議論を自由にかわす1つの方法として、ホワイトボードを活用するのをオススメします。会議では「誰々さんの発言」となった瞬間、人格と発言が結びついて、意見に対する否定なのに、人を否定するみたいになってしまう。なので、人格とその意見を分離するために、言ったことをホワイトボードに書いて、そっちを指差して話したほうがいいです。「君の意見が間違っている」ではなく、「この意見が間違っている」のほうが、人格が攻撃されないので、あまり厳しい感じにはならないと思います。
匿名性は大事です。「誰々さんの意見です」とはやらないほうがいい。何なら仮面をつけてやってもいいです(笑)。意見と人格を分離する工夫の仕方はいくらでもあると思いますし、それが一番わかりやすいやり方だと思います。
ホワイトボードや付箋、模造紙など、小道具を用意するのは有効ですね。私は結構、小道具を用意しています。「議論メシ」専用のチョコレートがあるのですが、その場に出すと結構喜ばれるんです(笑)。その場のアイスブレイクにもなりますし、チョコレートを食べて脳に糖分が回るのでオススメです。

質問は知らないことを聞くことではなく、議論を深めるための武器

――発言が苦手な人が上手に会議に加わるにはどうすればいいですか。
質問力を上げるといいですね。自分が理解できていないから質問すると思われがちですが、そうではありません。質問することは、本当はすごくクリエイティブなことなんです。すべて理解したうえで、さらなる考え方として、「こういうことはどうですか?」って提示できるいい機会だと思うんです。しかし、質問がそういうふうに捉えられていない。問いを出すことにあまり慣れていないと思います。
私もディスカッションパートナーとして企業で顧問みたいなことをやるのですが、異論があるときは必ず質問をします。たとえば、何かの事業をやるときに、「その事業は、ビジョンの達成にどういうふうに寄与するのですか?」と聞いてみたりします。そのときに言葉に詰まったりすると、「確かにビジョンと方向性が違うかもしれない」と、本人が気づいたりするんです。
そこで、私が、「それ、ビジョンと全然合っていないですね」と言うよりも、「ビジョンにどう寄与するのですか?」って質問するほうが、角が立たないし、本人が勝手に気づく。そういう質問をしていくと、自分の気づきとして腹落ちして行動ができる。質問力は重要だと思うことは、私もよく実感します。

ジャズのようなアドリブが利いたディスカッションはすごく楽しい

――日本人はディスカッションや、ディベート、プレゼンテーションが苦手という意識が強いと思います。実際にディスカッションに参加してどのように感じますか。
テクニカルなところは、確かにいろいろ課題があると思います。しかし、一番大事なことは、目の前の相手に自分がどう貢献できるか、そういう心構えだと思います。それさえあれば、テクニカルなスキルや専門性がなくても、役に立てると思っています。
方法論を突き詰めすぎてもあまり意味がないと思います。方法論しかないよりは、貢献の意思があるほうがいい。ディベートやプレゼンがすごくうまい人って、実はあまり信用できない(笑)。それよりは、下手でもいいから、この場に対して貢献しよう、この人に対して貢献しようと思っている人のほうが、話していてコラボレーションしたくなります。
――高級料理のレシピを教えてくれるより、隣のおばさんが佃煮1個持ってきてくれたほうが助かるみたいな(笑)。
そうです。それはすごく思います。「議論メシ」に入るのにすごくハードルが高いと思う人もいるかもしれませんが、そこは全然ないんです。自分の経験や知見を誰かに話したりすることや、質問することによって、誰かの課題が解決していくみたいなところに面白味を感じる人であれば、誰でもOKです。
いろいろな経験や知見を持った人が合わさってできていく感じです。専門家だけを集めたディスカッションとかはあまり面白くない。逆に議題とまったく関係ない領域のプロフェッショナルを入れたほうが、別の観点を持ち込んでくれたりする。だから、ごちゃ混ぜにしちゃいます。
同じような専門性だったら、そんなに数はいらないと思っています。チームでパスをつないでいく感じですね。パス回しが面白いんです。ジャズみたいなものです。それぞれが持っている楽器は違うけど、1つの目的、共通の目的、リズムに合わせて演奏する。その場でアドリブで音楽ができていくような感じがジャズ的だと思っています。そういうディスカッションはすごく楽しいし、もはやエンターテインメントの領域だと思うんです。思いがけないアイデアがメロディーのように出てくるのが楽しい。

ディスカッションはメンバーの多様性こそが醍醐味

――企業とのディスカッションではどんなことが期待されますか。
自社内でずっと考えていても、社内の言葉でしか会話ができないという声が多いですね。他の領域とか、他の専門性の人たちが使う言葉とか、考え方がなかなか入ってこなくて、凝り固まってしまうと。「そういうアイデアを出してくれて、別のあり方、別のシナリオを持ち込んでくれたのがすごく良かった」と言ってくれます。
あとはメンバーの多様性ですね。ドローンのパイロットとか、シェフとか、いろいろな分野のプロフェッショナルがいたりするので、そういうパートナーがいると喜ばれます。普通ならそういう人たちを10人呼ぶのは大変ですが、「議論メシ」では、テーマさえちゃんと設定されていれば、いろいろな人が集まることも期待されていると思います。

次代はクロスコミュニティのような概念が出てくる

――今後の長期的なビジョンがあればお教えください。
「議論メシ」は、サロンの中でも非カリスマ型、非インフルエンサー型の珍しいタイプなんです。箕輪編集室でもないし、落合陽一さんのデジタルネイチャー研究所みたいなものでもない。実際に私も真ん中に立っていない。このやり方をいろいろな人に伝えていけたら、誰でもコミュニティを自分のためにつくれるようになる。何か事業をやるとか、自己実現をするときに、「あ、コミュニティをつくればいいんだな」と、1つのやり方として選択肢に入るかなと思うんです。
次代は、たぶんクロスコミュニティのような概念が出てくるはずです。一人で3つ、4つコミュニティに入って、いかに自分の時間を配分して人生を過ごすかというライフスタイルになってくると思います。いまは10年ぐらい先まで予測して、逆算してやっている感じです。
もう1つは働き方の多様性を高めることです。コミュニティになるのかわからないですが、人の働き方の柔軟性が増すようなことを手がけていきたいと思っています。それがブロックチェーンなのか、コミュニティなのか、VRなのかわかりません。そのときに自分が興味を持てるものに手を加えていこうかなと思っています。働き方、生き方の多様性ですね。
これからは会社と個人とコミュニティの、それぞれの境界がより曖昧になっていくと思うので、そこをどう自由に乗りこなすかだと思っているんです。そういう時代に、自分がまずいろいろ試しているんです。
人と人とのアイデアとか、考えとか、脳みそをつないで、新しい観点や物事が起きるのがディスカッションのいいところだと思っています。せっかくやるなら一人できないことをやりたいですね。ディスカッションは一人ではできないので。
――黒田さんにとって、スマート会議とは?
目的をはっきりさせて、対立するように向き合うのではなくて、同じ方向を向いて、課題に向き合う。ヒトじゃなくて、コトに向き合うことが重要だと思います。
私は偶然起きることがすごく好きなんです。「ルール通りに」とか、「アジェンダ通りにことが進みました」っていうことにはあまり意味がないと思っています。アジェンダもほとんど用意しないです。最後に意図せぬ意見、考え方、アイデアが出てきて良かった、となりたいので。そういう、「偶然性が生まれやすい場になったらいい」と常に思っています。

文・鈴木涼太
写真・佐坂和也

黒田 悠介(くろだ ゆうすけ)議論メシ
議論メシ代表兼コミュニティデザイナー。年間30社の新規事業立ち上げをサポートするディスカッションパートナーという肩書きで活動。2017年11月にディスカッションパートナーの普及と輩出のためにコミュニティ「議論メシ」(https://www.gironmeshi.net/)を立ち上げ、現在会員約180名となっている。

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