プレゼンでは自分にしかないドラマや思いをストーリーにする【スマート会議術第94回】

プレゼンでは自分にしかないドラマや思いをストーリーにする【スマート会議術第94回】すごいプレゼン代表 松永 俊彦 氏

ビジネスシーンにおいて、プレゼンテーションの重要性がますます増している。社会は日々グローバル化、多様化、スピード化、複雑化している。そんな正解のない時代だからこそ、人を納得させるスキルが求められる。しかし、相手を理屈で説得しようとしても、論理的な説明だけでは誰も心を動かされないし、行動も起こさない。

大勢のオーディエンスを前に話をするのはもちろんプレゼンだが、営業や会議で自分の意見を伝えるのもプレゼンである。デートにどこに行きたいかを恋人に提案するのもプレゼンである。

塾教師を経て、現在営業コンサルタントとして活躍する松永俊彦氏は、「プレゼンは必ずしも高度な話術が求められることはない。誰でも人を動かすことはできる」と言う。

現在の会議には何が足りないのか、「人を動かす」には何が必要なのか。新進気鋭のプレゼンコーチとして活躍する松永氏に語ってもらった。

 
目次

生産性の高い会議には準備とルールが必要

――長い時間会議をしていてもいいアイデアや結論が出ずにダラダラしてしまう最大の原因は何だと考えますか。
まず会議の席についてから考えるというのは遅いと思います。会議の場で初めてテーマが公開されて、そこから「じゃ、皆さん考えましょう」とやっていたら、そんなに良いアウトプットが出てくるとは思えないです。事前に、今回は何のテーマについて課題を特定するとか、意思決定を行うとか、事前準備として何に関するデータを整理しておくとか、意見をまとめておくとか、共有しておくべきだと思います。決められた時間の中でどこまでのアウトプットをつくるのがゴールなのか。事前にアジェンダとして公開しておくことで、それぞれが答えを持った状態で参加するのが基本中の基本だと思います。会議の生産性を高める上で重要です。
――でも、事前に準備をするケースはあまり見られないですよね。
ないですね。会議のアジェンダを出す会社はあるんですけど、アジェンダだけ見ても一体何をやるんだろう?という、当日のお楽しみみたいな、そんな感覚です。これでは会議は大量にムダな時間を費やしてしまう場となります。
あとは、会議のルールを事前につくっておくことが大事だと思います。
・会議中は会議以外の業務は絶対に行わない
・会議の論点は事前に決めて共有する
・開始と終了の時間は明確に決まっている
・決めた時間内で、アウトプットしきる
・設定された論点に対する議論以外は会議で行わない
等を、以前に決めてしまうんです。そうすると、時間が短くても会議自体の生産性は飛躍的に向上します。
追加で思いついた話をしたいのであれば、ランチミーティングでもいいと思いますし、仕事のあとでご飯を食べに行きながらでもいいと思います。思いつきとか雑談ベースでポンポンと投げ込んでいる意見が、会議をやたらと長くして、論点をずらし、ゴールから遠のく要因になっている印象があります。
――本来、意思決定は収束に向かわなければいけないのに、誰かがまた思いつきで拡散し始めると時間が見えないですね。
会議の場で議論が拡散するとしたら、そこまでの練り込みとか、課題の絞り込みがまだ足りていないパターンが想定されます。「これが課題だ!」と思ったのに、「よくよく考えたらあれも課題じゃないですか?」と会議の場で出るとしたら、それは会議の前の時点ですでに検討すべき論点が漏れている。そもそも課題はこのひとつで問題ないのか、もう1回課題そのものを見直すようなミーティングを入れたほうが、時間をショートカットできると思います。
――そういう判断は会議の主催者がするべきですか。
そうです。そして、できれば議論全体を俯瞰してみることができる人であることが好ましいです。意思決定権をすべてこの人が持つということではありません。それでは意味がない。会議の進行をスムーズにし、価値ある時間にするために役割を決めておくといいでしょう。立場に関係なく誰がやってもいいと思います。
――会議中に誰が仕切って、誰が決めるという、役割分担が曖昧なケースがすごく多い気がします。
それが会議のルールづくりになるかもしれないですね。ファシリテーターが誰だとか、それぞれがテーマに対する意見をもって参加するとか、会議は絶対に守られた場であるとか。本当に解決すべき課題があるときに、遠慮してそれを言えない場であるとしたらまったく健全ではないです。そういう会社でよくあるケースは失敗したあとで、「ほら、だからダメだと思ったんだよね」とか、後出しで出てくるんです。「だから、あのときやめたほうがいいって、僕は思ったんだ」とか。他の人の目が気になるとか、守られていない環境の会議だと、生産性の高いアウトプットは出てこないと思います。
――最近、「心理的安全性」がすごく重視されていますね。
会議の目的や主旨に沿ったことであれば、何を発しても自分が攻撃を受けないのは本来当たり前のこと。その環境をつくるためにも、ルールは必要でしょう。ただ、そこで言ったことが引き金になって蜂の巣をつついたような大騒ぎになることを想像すると、本来正しいと思ったことが言えなくなる可能性がある。そういうこともあるので、伝え方にはバランス感覚が必要だとは思いますが。

コンテンツだけが良くてもデリバリーが良くないと伝わらない

――会議で場の流れや空気を壊さずに発言しようとするとどうしても発言がしづらくなりますね。
会議でのプレゼンにはコンテンツとデリバリーという考え方があります。まったく同じことを言っても、Aさんだとすんなり受け入れられて、Bさんだとまったく受け入れられないケースってあるんです。これは伝え方、つまりデリバリーの問題です。相手が受け取りやすいポジションにボールを投げる力、伝え方。言っていることはまったく同じだとしても、デリバリーによって受け手の印象が変わってしまうんです。
「A案を導入すべきです。いまのやり方はダメです」と伝えたらダメなものでも、伝え方によって受け入れてもらうことが可能なのです。 
――そこをどうやって見極めていけばいいのですか。
デリバリーで重要なのは関係性です。少なくとも相手に対して、嫌だなという思いを抱かせていないかが重要です。「好かれる」というのは少しハードルが高いかもしれないですが、少なくとも「嫌いではない」という状態にしておくのがポイントです。
プレゼンでも登壇した時点から「嫌だな」と思われたら、すでにこの時点でゴールから遠のいているんです。見かけがすべてではないですが、靴がすごく汚れているとか、スーツがヨレヨレだとか、ボタンが全部開けっ放し、という人がいくら正しそうなことを語っても「同調できない」となったらそれで終わりです。相手に不快感を与えない言動はもちろん、きれいな身なりをしておくこともすごく大事だと思います。
相手に嫌な思いをさせない言い回しも大切。相手を否定するのが目的なのではなく、よりよいゴールに向かうことが目的なはず。それなのに、議論で相手を負かすことや、自分の意見を通すことに必死になっていては、関係性はつくれません。相手を尊重する気持ちをベースにして、伝え方を考えましょう。

「五者」を演じて相手に伝える

――おしゃべりが得意な人もいれば、いいアイデアを持っていても人前でしゃべるのが苦手な人もいます。みんな公平・平等に発言できるようにする方法はありますか。
私はいつも「五者になれ」と言っています。「医者」「易者」「演出家」「教育者」「役者」の五者です。これは相手のことを考えて伝えるための立場を表しています。プレゼンテーターもまったく同じです。
医者というのは、相手が何に困っているのかを察知してあげる力のことを言っています。お医者さんがいろいろなことを聞いてくれるじゃないですか。「頭が痛いですか?どの辺が痛いですか?どんなふうに痛いですか」と心配してくれて、「であれば、こんなふうになると思うので、こういったお薬を出しますね」と、相手のことを理解してあげるお医者さんでなければいけない。これが医者です。
そして、易者。占い師です。「あなたがこのままいくと、こんな大変なことがあるかもしれない」と言ってあげるのも優しさです。「これを導入したらこんな楽しい時間が得られる」と未来を伝える。
――相手にストーリーを伝えるわけですね。
そうです。演出家もそうです。プレゼンをやる上で、自分が限られた時間をいただいているわけですから、どう演出してエンターテインメントの場にするかを考えます。つまらなそうに下を向いて淡々と話していれば、そのうち全員が聞かなくなるでしょう。最後まで聞き手を惹きつけるためのストーリーづくり、仕組みづくりをする演出家でなければいけません。
あとは教育者。説教のように押しつけるのは良くないですが、正しくないと思うのであれば、「それは違います」と断言してあげる強さが必要です。聞き手にとっての指導者、教育者でなければならないと思います。
最後に挙げているのは役者。自分自身がそのポジションで役者になりきって、相手に何をどう伝えるのか。役者になるのが良い悪いではなくて、相手に伝わって相手が動くのであれば、自分も役になりきったほうがいいと思います。
自分が伝えたいメッセージを語るという役に入り込むと、感極まって涙が流れることがあります。プレゼンで人が泣く場面はあまり見ないかもしれませんが、実際私は動機づけのスピーチとかセミナーの最後で思いをぶつける部分のスピーチで涙が出ることがあります。自分の感情が誰よりも高い状態になるので、過去の場面を思い出したり、感情が極まって涙が出ます。感情は伝播するので、聞き手を見渡すと他のどなたかが涙を流していらっしゃいます。別に泣こうと思って泣いているわけではない。役に入りきっているから結果的に涙が出るのです。
プレゼンの背景に自分にしかない経験とか、思いとか、伝えたいメッセージがあると役に入り込みやすいかもしれません。そして、その瞬間自分から発せられた本物の言葉に感情が宿り、聞き手の心を動かすのです。プレゼンでストーリーを語るとき、体のいい作り話をしているみたいなのは一撃で見抜かれるんですよね。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

松永 俊彦(まつなが としひこ)すごいプレゼン
すごいプレゼン代表。プレゼンコーチ。塾教師として入社初年度から生徒支持率95%以上という驚異的な成績を誇り、多くの生徒を地域トップ高校をはじめとする難関校合格へと導いた。学力だけにとどまることなく人間力を成長させる指導は生徒、保護者から絶大な支持を得た。その後、教師育成だけにとどまらず、ビジネス領域の一般企業研修、営業指導領域でもHPPMの効果を実証し、セミナーや研修を通じて世の中に輩出したプレゼン生徒数は500名を超える。著書に『感動させて→行動させる エモいプレゼン』(すばる舎)がある。
https://sugoi-presen.com/

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