マグロ漁は、“儲ける”ためではなく、“モテる”ためにやっている【第4回】

マグロ漁は、“儲ける”ためではなく、“モテる”ためにやっている【第4回】株式会社ネクストスタンダード 齊藤正明

 

目次

なかなか捕れないマグロ

船に乗る前は、「マグロってたくさん捕れて、甲板の上をビタビタ暴れてるんだろうなぁ」と想像をしていましたが、現実にはマグロはなかなか捕れず、むなしく長~い縄をただひたすら引き揚げる作業が続きます。

1960年ごろは力士のようなでっぷりとよく太ったマグロがたくさん捕れ、出港から7日で大漁旗をかかがげ、胸を張って帰港できたことも珍しくなかったそうです。  しかし今ではマグロが捕れなくなり、遠方へ漁場を開拓せざるを得なくなり、私が乗せられた2001年の時点では、40日かけても満船にならないことが多かったと記憶しています。

捕りに行くマグロの種類によって捕れる数は大きく変わるのですが、私が乗ったときの獲物であった、メバチマグロやキハダマグロは、平均すると30分に1匹かかる程度です。

ただしあくまでも平均なので、群れに当たれば一気に捕れますし、そうでないときは、2時間も3時間も縄を揚げるだけの単純作業が続きます。

不漁のときには、「漁師たちも元気がなくなり、ピリピリした雰囲気になるだろう」と予想した私は、彼らを怒らせないよう、なるべくおとなしくしていました。

漁師たちはマグロがかかっているのがわかれば、「お~、お客がきたど!」と言って、銛のような漁具をみんなが持ち、「コイツはなかなか元気じゃのう」、「おいどーに任しぇ!」など言い合い活気がある雰囲気です。

そして、マグロはかからないときにはどうだったかと言いますと、「あの店の“海物語り”(パチンコの機種名)、あんまり出さんようになったのぉ」という感じでパチンコの話をするか、「○○丸の機関長が、『あの店のおなごはみんなキレイじゃ』って言うちょったど」など、どうでもいいような話で、みんなゲラゲラ笑いあっていました。

つまり、マグロが捕れてもそうでなくても、漁師たちは楽しそうなのです。

マグロを捕るのは、筋トレのため

漁師に、「マグロがいっぱい捕れるときには元気なのはわかりますが、マグロが捕れないときにもみんな元気ですね」と言うと、「マグロを捕るためにやっちょるわけではねぇけんのぉ」と、理解できないことを言われました。では、何のために漁をしているのか理由をたずねると、次のように話してくれました

「まぁ“遊び”よの。 みんなとおしゃべりするためにやっちょる」
「はぁ?! じゃあ、あの過酷な肉体労働は何なんです?」
「あれは、筋トレじゃ。 筋肉があれば女にモテるじゃろうが」

「筋肉があれば女にモテる」という漁師の理屈はさっぱりわからなかったのですが、それを突っ込むと、「齊藤みたいな“ひょろきん”に言われとうねぇ!」と言われそうだったので、「漁師にかかると、何でも楽しくなるんですね」と、少し嫌味を込めたような言い方をしました。

すると漁師は、「コイツは何もわかってねぇ」と言いたげな、少し厳しい顔つきになり、「ええか。 マグロが捕れるかどうかは、漁場を決めた時点で、もうどうにもならねぇ。読みが当たちょれば捕るるし、そうでなければ捕れねぇ」と話してくれました。

捕れないからといって船員のやる気が落ちると、マグロの活き締めの作業が緩慢になって鮮度低下を招いたり、さらには事故につながるそうです。

“人通りがあって”、“同業種のお店が少ない”場所はない

「おいどーらも、つまんねーことや、辛ぇことやらはいくらでもある。けんどの、それを言い始めたらキリねぇし、いいことねぇじゃねぇか」
「じゃあ、つまんないことを、楽しく変える工夫って何ですか?」
「そいつは簡単ど。 “サッカー”でも“将棋”でも、“ゲーム”やらが楽しいんは、なかなかうまくいきよらんからじゃろ」
「サッカーなんかは、1点が入らないですよね……。 『点、入れ放題です』と言われたら、逆に楽しくないでしょうね」
「そげーじゃろ? じゃから、うまくいかねぇってんは、本当は楽しいんど」
「『仕事はお金をもらうんだからツマラナイもの』っていう常識は、実は間違いなのかもしれないですね」

仕事では、一見してツマラナイことというのは多いと思います。それはたとえば、

・部下が思うように動かない
・計画を立てたとおりに、成果が上がらない
・単純作業の繰り返しでやる気が起きない
・無茶なクレームがくる

などです。

これらツマラナイことに対して理屈をふりかざし、「給料をもらってんだから、いいからやれ!」と言ったところで、嫌々させる仕事では成果は上がらないでしょう。

管理者はマグロ船のように、部下がツマラナイと感じている仕事を、「どうやったら楽しく感じてもらえるか?」というところに知恵を働かせ、楽しさを見いだしてもらうようにしていくべきだと思うのです。

漁師の場合も、根っから明るくてどんなことでも最初から楽しく思っているわけではありません。「この単純作業を、どうやったら楽しくできるか?」と考え、生み出していった工夫なのです。

【今週の教訓】

仕事は、サッカーと同じく、“ゲーム”と考えましょう

※本記事は『マグロ船仕事術―日本一のマグロ船から学んだ!マネジメントとリーダーシップの極意』から抜粋・再編集したものです。

齊藤 正明(さいとう まさあき) 株式会社ネクストスタンダード
2000年、北里大学水産学部卒業。バイオ系企業の研究部門に配属され、マグロ船に乗ったのを機に漁師たちの姿に感銘を受ける。2007年に退職し、人材育成の研修を行うネクストスタンダードを設立。2010年、著書 『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』が、「ビジネス書大賞 2010」で7位を受賞。2011年TSUTAYAが主催する『第2回講師オーディション』でグランプリを受賞。年200回以上の講演をこなす。主な著書に『マグロ船仕事術―日本一のマグロ船から学んだ!マネジメントとリーダーシップの極意』(ダイヤモンド社)、『仕事は流されればうまくいく』(主婦の友社)、 『マグロ船で学んだ「ダメ」な自分の活かし方』(学研パブリッシング)、『自己啓発は私を啓発しない』(マイナビ新書)、『そうか!「会議」 はこうすればよかったんだ』(マイナビ新書)、『海の男のストレスマネジメント』(角川フォレスタ)など多数。

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