コミュニケーションはストレスを打開する力【スマート会議術第170回】

コミュニケーションはストレスを打開する力【スマート会議術第170回】ツクリビト株式会社 代表取締役 小野裕子氏

会議HACK!でも、昨年12月に開催された「会議HACK!サミット~テレワーク時代の新しい働き方~DAY2開催!」にご登壇いただいたブランディングディレクターの小野裕子氏。

小野氏はウェブディレクター出身でありながら、現在は企業のブランディングをはじめ、課題解決のためのフレームワークを用いて、業種・業態問わずさまざまな企業とのプロジェクトを手がける。

オンラインによるテレワークが普及する一方で、コミュニケーションがとりづらくなったという声も多いが、小野氏はそもそもいまの社会はコミュニケーションが下手になっていると言う。

なぜ下手になってきてしまったのか。そして、どうすればコミュニケーションを上手にしていくことができるのか。小野氏に「本当のコミュニケーション」とは何か、語ってもらった。

目次

ファシリテーターは集う人たちを主人公にする

――会議においてファシリテーションは重要な要素の1つだと思いますが、お客さんにはどういうプロセスでファシリテーションをされていますか。
ファシリテーションというと、仕事の現場では会議進行役みたいに思われることが多いのですが、ファシリテーターが大事なのは決まった答えに誘導しないことです。ファシリテーターはその場が活性化することを担っているので、自分から解決策を提案したり提示したりしない立場なんですよね。
だから場のデザインに徹することが大事だと思います。ファシリテーターがやってはいけないことは、答えを提示したり、自分がいいだろうと思う答えに誘導したりしていくことです。では何のためにいるのかといえば、その場に集う人たちを主人公にする。その場に集う人たちの頭脳が集まっているので、創発を起こすために何が必要かということをやるのがファシリテーターだと、私は思っています。
――現場から少しずつでも変えていくような方法は、理屈ではわかっていても企業文化や人間関係を考えると現実にはなかなか難しいと思います。
いろいろな人が抱えている課題だと思いますが、会議の仕組みを変えるのは結局会社のトップの判断がすごく重要になってきます。トップが会議のスタイルそのものに疑問を持つというか、そこで何が話されているかという内容ではなくて、実は会議は仕組みを変えれば内容が変わるんだという、会議を仕組みとして捉える。ただ単に報告会ではなくて、会議はそこにそれだけの人材が集まって、その人たちの時間単位のお給料を考えたとしてもすごい金額になるわけですが、それを投資している時間だということをいかに意識できるかですね。
その投資を回収するためには仕組みが必要であり、より良い投資のリターンを受けるためには、どうやったらいいのかという、会議を仕組みとして捉えてもらうのが重要なポイントだと思います。仕組みが捉えられない場合、たとえば若手の立場に立ったら根回しがすごく重要になってくる。古いやり方ですが、上司に何度も企画書をぶつけてみるとか、上司との友好的、信頼的な関係を普段から築き上げるとか、その会社の中で自分が実現したい企画やプロジェクトがあるのだとしたら、それは裏の手配が必要になることはありますよね。
――「あの上司には言いづらい」と怖がっていても、いざ意見をするとそういう上司に限って喜んですんなり受け入れてくれたりすることもありますよね。
そうなんですよ。だからタイミングを見計らうことは重要です(笑)。そういう組織で生きていらっしゃる方々は往々にしてそうだと思うんですけど、いまの時代性、会社の状態、競合の状態をよく観察する。いまだったらこういう理由をつけて、上司がさらに上の職位に上げやすいとか、自分自身というよりも、話を持ちかける相手の動きやすさを考えてあげると非常にスムーズにことが進んでいく可能性もありますよね。
――根回しというとネガティブな捉えられ方すること多いですけど、一概に悪いことではないですよね。
言い回しとか根回しとか、嫌がられますけど、言い方1つで理解しようと相手の姿勢が変わることがあります。相手が聞きたくなる表現を考えることは、言い方を変えれば、利他なんですよね。人の姿勢が変わりやすい言い回しとか、納得へ導く共通言語や手法があると思うので、それらを身につけられることは、組織の中にいる人にとって大事だと思います。

コミュニケーションが下手になっている理由

――今後、ますますオンラインで仕事を進めることが増えていくと思いますが、社会全体でコミュニケーションのあり方は変わってきていると感じますか。
コミュニケーション自体は下手になっていると思います。自分の意見を主張することがコミュニケーションだと思っていたり、気軽な挨拶をするのがコミュニケーションだと思っていたりする。でも、コミュニケーションはうまくいっていない現場でどう働けるかという力なんです。
挨拶が上手だとか、自分の意見を言えるとかは、うまくいっているときに生じやすい現象なんですよね。自分の意見を言えるとか、相手が意見を言えるとか、それは意見の投げ合いにすぎません。
そうではなくて、本当のコミュニケーションはストレスが高い中で、どう打開していけるかという力なんです。コミュニケーションが下手になっているというのは、お膳立てされた状態でのコミュニケーションはできるけど、お膳立てがなく折り合いをつけながら新しいものを生み出していくことは、非常に下手になっている気がします。
――コミュニケーションをやめてしまうことが多いかもしれませんね。もともとそういうことはあったかもしれませんが、ITの進歩によって直接対話の機会も減ってきています。
コミュニケーションってもともと面倒くさいことなんです。全然違う価値観を持った人たちが動くときに面倒くさいから、Aの意見の人たちを無理やりBに、軍隊みたいに1色に塗りつぶしたり、Aの意見とBの意見の共通点を見つけ出そうとしてきた。
たとえば世界中にいろいろな宗教がありますが、みんな世界平和を願っているという意味では共通しているはずなのに宗教の違いで戦争が起きる。最大公約数の共通項「世界平和への願い」が見つかったとしても、なんの解決にもならない。それを見つけることによって、「お互いこういうことを大事に思っていたよね」と曖昧な同調は全然コミュニケーションではないんですよ。
コミュニケーションは、「お前も俺の意見に賛同しろ」みたいに1色に塗りつぶすことや、抽象的な共通点を見つけることではなく、お互いがそれぞれの違いや多様性や混沌状態を避けずにしのいでいくのがコミュニケーション。すごく面倒くさくて手間がかかることなんです。
いまは、その手間を惜しむ方法を選ぶようになっちゃったのかなって思います。手間じゃなくて便利を選んでいく。要は簡略化していくほうを選ぶ。だからおむすびだったら、自分で米を炊いて、自分で塩をつけて、それをむすぶ、食べるというよりは、買って手に入れる。結果だけですよね。結果を手に入れる。そこに至るプロセスは見ない状態になっている。でもプロセスに価値があるのだと思います。

たくさんの手だてを持つことが大事

――昨年12月の「会議HACK!サミット」で小野さんは視聴者に贈る言葉として「クレイジーに生きる」とおっしゃいました。改めて「クレイジーに生きる」ことの意味をお教えいただけますか。
一言で言うと、やはり前回もお伝えした「Being=あり方」が非常に重要になってきているということですね。何をやっているかよりも、どうありたいのか。何を売っているのっていうよりも、その商品がこの市場でどうあり続けるのか。そのあり方というものが、根本的に求められる時代になってきていると思うんです。
たとえば自分はこういうことが得意だと言ったとしても、その得意・不得意は、優劣になるとレベルがつけられてしまう。そうではなく、レベルがつけられない、誰にも代えがたい、自分だけのあり方というのは何か。そのあり方を定めることが、その人自身の生きやすさだったり、働きやすさだったり、チームを生み出すものにつながっていくと思っています。
世の中は一人ひとりが面白い人だらけですから、その一人ひとりのあり方はみんな違うんですよ。その違いが面白さを生んでいくので、クレイジーに生きるというのは、自分らしさの発揮ということなんですよね。
――自分自身のあり方、クレイジーさに気づいていても、会社で発揮できない人もいますよね。仕事に自分らしさを見出せないことは多いのではないでしょうか。
そうですね。そういう場合、1つの居場所にすべてを求めるのはやめたほうがいいと思います。たとえば自分の生活の糧であるとか、自分が安らぎながら生活していくためには仕事をきっちりやる。でも、その中で自分の発想力が満たされないという思いがあれば、それは違うコミュニティで発揮していけばいい。
セルフブランディングというと、1つの自分に決めなきゃいけないって思いがちですが、あり方が1つ定まれば、その発露のアプローチはたくさんあっていいわけです。それが仕事でもあってもいいし、趣味のつながりでもいいし、何か作品づくりのようなアーティスティックな活動でもいい。たくさんの手だてを持つことが大事だと思いますね。
――いまや1つの会社に縛られて終身雇用で働くという時代じゃないですからね。
そうですね。人にはいろいろな顔があるから、それが発揮されていればいいと思います。
――最近の人気のオンラインコミュニティではお金を払って仕事をする人もいるようですが、これも普段の仕事ではできない自分のあり方を発露できるからという気がします。
そうでしょうね。「会社がなんとかしてくれないから、私はこうなんだ」ってなったら、完全に依存していることになる。責任を預けて奴隷になってしまっているわけですよね。自分の主人は自分なので、自分がどう関わるかを考えたほうが健全だと思います。
――精神論や感情論ではなく、論理的、技術的に意識改革していけるものでしょうか。
変えていけますね。思考と感情はつながりやすいんですけど、そのつながりに揺さぶりをかけることは、トレーニングできることなので自分が決意すれば、意識改革は思っているよりもすぐに起こせますよ。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

小野 裕子(おの ゆうこ)株式会社つくるひと
ツクリビト株式会社代表取締役。明治大学サービス創新研究所 客員研究員。日本大学大学院藝術学研究科修士課程修了。企画コンテンツ開発会社で事業開発ディレクションを経験後、2006年、ツクリビト株式会社を創業。問題解決力が認められ、商品、サービス、事業開発、業務プロセスの改善や新規事業開発の「現場」に関わる。売上高2億~7700億円規模の組織、業種業態を問わず、創業以来800を超えるプロジェクトに携わる。10年間で延べ3万人の現場会議をファシリテートし、現状打開や問題解決の現場を経験。「考え方を変えれば世界が変わる」をあらゆる仕事の軸としている。企画やチームビルディングなどでアイデアを掘り起こし、さらにそれを具体化できるようにと考えられた「イノベーションカード」を開発。著書に、38のフレームワークと、5つのグランドルール、目的別のさまざまな会議スタイルの紹介、シチュエーション別対処法などを教える「『結果を出す会議』に今すぐ変えるフレームワーク38」(日本実業出版社)がある。

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