念いを伝える3つのポイント【第4回】

念いを伝える3つのポイント【第4回】前田鎌利 (書家/プレゼンテーションクリエイター)

第3回では「念い」の意味合いと2つの念い(自分と相手)を伝えるスタイルがあることをお伝えしました。では、具体的にどのようにして伝えるのか、そのポイントを解説していきましょう。

目次

念いを伝える3つのポイント

ビジネスにおいて「念い」を伝える際に考慮すべきポイントは以下の3つです。
❶ターゲット
❷シンプル+ロジカル
❸感情
まずは❶ターゲットです。
すべてのプレゼン(伝える行為)は、誰かに対して情報を提示することからスタートします。「このプレゼンは誰に向けて行うものなのか?」。これが明確でなければ伝わりません。
ベンチャー企業へ事業提案する際には、決裁者は20代~30代の方が多く見受けられます。大手企業の決裁者は50代の方がコアな世代です。この時点で20年~30年のジェネレーションギャップが生じます。
同じ資料を持参して、相手が意思決定できるでしょうか? 答えはNOです。
たとえば大手企業の場合は、多数の決裁プロセスを通さないと決まらないことが多いのです。その提案資料に対して質問に的確に答えられるよう、補足資料のデータは多めに準備するほうが賢明です。一方、ベンチャー企業は規模も小さく、資料保管スペースも限られていると想定してPDFデータで後ほど送付するなど、相手企業の立場に立ってカスタマイズします。
ターゲットを意識することで資料ボリュームだけでなく、フォントサイズ、文章が多めがよいか、少なめのほうがよいか、紙を使用したほうがよいか、データがよいかなど、その伝え方は大きく異なってきます。
ターゲットへ「念い」を伝える上で、相手の立場に立って、一手間をかけることが重要な要素となるのです。この一手間を、「面倒くさい」という理由や「効率的でない」という理由で、ないがしろにすると「念い」が伝わりにくくなってしまうのです。
2番目には、シンプル+ロジカルという視点です。限られた時間しかないので、その時間を有効に使うためには、次の3点を意識します。
・サマリー資料、および本編資料は枚数を限定する(補足資料と切り分ける)
・課題→原因→解決策→効果の順をベースにして臨機応変にアレンジする
・FAQ(想定問答)を意識して質問に答えられるように準備をする
限られた時間の中で、詳細な説明まで最初から行っていては、時間がどれだけあっても足りません。相手も、「結論は何ですか?」という思考になってしまいます。まず、最初に概要を端的に伝えてください。
そしてロジカルさを意識して、構成は「課題→原因→解決策→効果」の順番に配置します。型を決めることでプレゼンを作成する時間も短縮できます。
最後のFAQですが、相手はプレゼンを聞いた後で、さまざまな疑問や質問が残るはずです。その疑問を払拭するのが質疑応答です。
日本においては、書かれていること以上に書いていないことについて質問される傾向があります。その質問に的確に応えることができると信頼を勝ち取り、安心感を与えます。ところが、質問に対して根拠となるデータが示せない、熟考できておらず盲点があったりすると、上席からの質問に対してあたふたしてしまうでしょう。
こうなってしまうと相手は不信感を持ち、提案内容も不安になってきます。ですので、プレゼンテーションにおいてはこの3つを意識して準備をしておかないと通るものも通らなくなってしまうのです。
そして3番目は、感情を動かすことです。
企業内でのプレゼンテーションであれば、データを見せることで説得力が十分担保できます。また、決裁者は課題に取り組む姿勢が最初から醸成されていますから、相手の気持ち・感情をこちらに向ける必要もありません。とはいえ、新規事業提案などは、収益化できるかどうか未知数ですが、その提案者を信じて予算を充当する、といった意思決定を行う必要があります。
このときには、その提案やプロジェクトに対して決裁者自身がワクワクできるものでなければ承認は下りづらくなるでしょう。もちろん、収益につながることはビジネスの大前提ですが、新規事業提案は当事者が最後までやる気を持って自走してもらわなければ成立しません。
また、社外プレゼンは、赤の他人の感情を動かす必要があるため、さらに社内プレゼンよりもハードルが高くなります。いかに「自分ごと」として捉えてもらえるのか、最後まで寝ないで話を聞いてもらえるか。ここで有効に機能するのがビジュアルです。 写真や動画で視覚に訴えると効果的です。
ビジネスの現場では、「相手がどういう人であろうと、所属している会社さえ取引先として魅力があればOK」という場面があるかもしれません。また、「費用対効果が一番よいからこの会社で」となることもあるでしょう。
しかし、継続的に提案が受け入れられて、仕事を長期に渡って一緒に続けられるか? 部署異動しても指名されて仕事を受け続けられるか? ということを考えた時、「その人自身」だったり「人間性」ということは、非常に重要な要素になってきます。
だからこそ、あなたの「念い」を伝えるアプローチはとても重要なのです。
これまでは、提案する企業の信頼度、安心度によって判断、評価されていた提案内容が、昨今のベンチャー企業の躍進や働き方の多様性が認められてきたことによって、「大企業」から「中小企業」へ、さらに「企業」から「個」へと信頼・安心を得られるような見える化が進み、意思決定のパラダイムシフトが起きています。
企業に所属していても、
誰にこのプロジェクトを任せるのか?
この提案をしてきた人がどんな「念い」を持って提案してきたのか?
それを見極めて任せるのです。働き方改革を掲げて、社員の作業を外部へ委託する際も、キーになってくるのは委託先となるベンチャー企業の代表者の「念い」や個人事業主その人自身の「念い」です。
職能や能力が画一化してきた中で、「念い」が他者との差別化要素であり、判断基準の一つになってきているのです。一緒に仕事をしたい人、一緒に時間を過ごしたい人、それはその人が信頼・安心できて、引き続き仕事を依頼したいという「個」に対する評価に変わってきています。 そして、その「個」を支えるのは「何を是とし、何に価値を置くか」という美意識の問題になっていることもうかがえます。
その美意識や、可視化されていない「個」である人間力を感じるのは感性であり、「人を見る目」「人を感じる力」は共感性に拠るのです。
自分自身の「念い」を感性や共感性に響かせるためには、
「伝えたいことを手短に、かつ印象的に伝える技術」 と「自分の「念い」を伝える技術」
です。
前者は限られた出会いの機会や時間の中で、相手のアクションにつながる納得を獲得し、すばやくビジネスを推進することに。後者は信頼を勝ち得て、相手から選ばれることでネットワークを作り、継続してビジネスチャンスを拡げることにつながります。
※当コラムは著書『ミニマム・プレゼンテーション』を基に補筆したものです。
前田鎌利(まえだ かまり)
書家/プレゼンテーションクリエイター、株式会社固(https://katamari.co.jp/)代表取締役。一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事。東京学芸大学卒業後、17年にわたりIT業界に従事。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、初年度第1位を獲得。2013年にソフトバンクを退社、独立。2016年、株式会社固を設立。ソフトバンク、ヤフー、ベネッセ、 SONY、JR、松竹、Jリーグ、JTなど年間200社を超える企業にて講演・研修を行う。著書に『ミニマム・プレゼンテーション』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『社内プレゼンの資料作成術』『社外プレゼンの資料作成術』ほか多数。

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