プレゼンは「ロゴスとエトスとパトス」のかけ算【スマート会議術第119回】

プレゼンは「ロゴスとエトスとパトス」のかけ算【スマート会議術第119回】株式会社アンド・クリエイト代表取締役社長 清水久三子氏

「プレゼンは決して難しいものではない」

そう語る経営・人材育成コンサルタントの清水久三子氏。古代ギリシャ時代の哲学者・アリストテレスが提唱した「ロゴス(論理)」「エトス(信頼)」「パトス(感情)」。この3つの条件さえ満たせば、プレゼンは自ずと相手に伝わるものになると言う。逆に言えば、この3つのどれが欠けても相手に伝わるプレゼンにはならないと言う。

プライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)で、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、多くの新規事業戦略立案・展開プロジェクトをリード。著書『話しベタさんでも伝わるプレゼン』をはじめ、数多くの著書を持つ作家としても活躍する清水氏に、誰でもできるプレゼン術についてお話を伺った。

目次

ロゴス(論理)は型さえ覚えればできる

――著書『話しベタさんでも伝わるプレゼン』に書かれていた、プレゼンを構成する「アリストテレスのロゴス(論理)、エトス(信頼)、パトス(感情)」についてお教えください。
ロゴス(論理)は簡単に言えば自分のしたい主張とそれを支えるための型です。論理的に話せない、自分ができないと嘆いている方はいますが、それは慣れなんです。コンサルタントなんかは思考も含めて論理的に話すように訓練してできるようになっているので、やればできますという話だと思うんですよね。型をまったく知らずに論理的にというのは難しいのですが、逆にそこは型を知ればできるという話だと思います。
――型というのは、具体的にどういうことですか。
ピラミッドストラクチャーのようにメインメッセージがあって、それを支えるサブメッセージがあって、それを支える根拠。これが型なんですよね。そこでまず伝えたいことの骨格ができ上がるので、それをどういう順番で話したらいいかっていう話なんです。まずは型ができてない。骨格ができてないのに話そうとしたら、それは支離滅裂になって当たり前。なので、その型を知るというところで、ロゴスは解決する問題なんです。
――ピラミッドのテンプレートがあればいきなり組み立てができるものですか。
もちろん本格的にきっちり学ぼうと思えば、ロジカルシンキングの本を読んだり、セミナーを受けたりすればいいと思います。ただ、ざっくり言うのであればピラミッドの頂点が伝えたいことなので、こういうことをしたいとか、こういうふうにしたほうがいいであろうという結論ですよね。頂点にまず結論を入れる。その下はサブメッセージという言い方をしますが、なぜそうしたほうがいいのかという理由1、2、3を入れる。なぜそう言えるのかという具体的な事実が一番下に来る感じです。これは本当に基本的なパターンです。
一番下に出てくる事実とか根拠は、誰が見てもわかるくらい具体的になっていれば大丈夫です。そこに疑問が湧くと、それは事実なのか解釈なのか、よくわからない感じになってしまうので、それはその通りだと思えることが、一番下で支えているものになります。自分の中でも腑に落ちて、誰が見てもそうだよね、という事実を一番下で支える意思として持ってきます。
――そうやって自分で整理できていれば、暗記しなくても自然に出てきそうですね。
できると思います。ロゴス(論理)は型さえ覚えればできます。一方、日本人はエトス(信頼)の使い方が苦手な方が多いですよね。感情を出すのが苦手なのでプレゼンでは普段より1.5倍ぐらいの感情を出したほうがいいと思います。淡々としてしまう方が非常に多いので、声にも感情を乗せて思い切って自分の感情や思いの強さを表現するということをリハーサルでやったほうがいいです。思いが強くても全然表現されていない方が多いような気がするんですよね。慣れていないし、緊張するところがあるので、声の大きさ、表情、手の動きなど、リハーサルで普段の1.5倍という気持ちでやってちょうど伝わる感じだと思います。
最後にエトス(信頼)を得るためにはプレゼンス(存在感)を表現する。プレゼンで聞き手は大体「この人はどんな人なのか」「大丈夫かな」と値踏みするところから始まっているので、まずは「私のことをちゃんと信頼してほしい」というプレゼンスです。中身がどんなにいいプレゼンでも、自己紹介や立ち居振る舞いが悪ければ全然聞いてもらえないというケースが非常に多いです。
プレゼンは「ロゴス(論理)×エトス(信頼)×パトス(感情)」のかけ算だと思っています。いくら論理的に話したとしても、この人イヤだなとか、ちょっと違うなとパトス(感情)がゼロになったら、まったく響かなくなってしまう。もし仮にうまく話せたとしても伝わらないと思ったほうがいいと思います。
――この3つの要素をバランスよく。いま自分はどこが強いか。ロゴスは強いけどエトスはまだできてないみたいな意識を持って臨めばいいのですね。
そうですね。100点満点というのは目指さなくていいですけれど、どこかが極端に弱くて伝わらなかったり、マイナスになったりしたらもったいないので、少なくともこれはゼロじゃなくて10にしておこうと考えたほうがいいと思います。
逆に、すごくエトス(信頼)が強い。すごく信頼されている人だったら、そんなに感情的に話さなくても、淡々と話しても聞いてもらえちゃうわけですよね。ぼそっと言った一言でみんなが感動しちゃうとか、「そうだよね、やっぱり」ってなるので、その辺はかけ算だと思うんです。エトスが突出している人だったら、逆にそこまで感情を表現しなくてもいい。相手の人がちょっと論理的なところがないと説得できない人なんだなと認識したら、そこをちょっと高めておこうとか、全部100%にするということではなくて、今回の場合、どれが必要なのかというのを考えたほうがいいと思います。
――以前、ソフトバンクの孫正義さんのプレゼンを聞いたことがあります。孫さんは柔らかい笑みで淡々としゃべりますが、その淡々とした口調の中に抑揚があって、もともとのエトス(信頼)が強いから、すごく説得力があるなあという印象でした。
孫さんはもともとプレゼンスが高いというところで、みんながそれを聞きに来ているのでそうなるでしょうね。聴衆側が聞かせてくださいという感じになるので、エトスはあえて強調する必要はもうない。明らかに圧倒的なプレゼンスというか、エトスの高さから始まっているので、淡々と話してちょうどいい、力んでなくてちょうどいいみたいな感じですね。

ピラミッドストラクチャー*
コンサルタントの育成や報告・文章能力の向上を目的にマッキンゼーによって開発された。コンサルティング会社や、大学などに採用され、論理的に提案や報告をする際の基本スキルとして普及している。

プレゼンス・コンテンツ・デリバリーの3つの観点から評価するプレゼン

――普段からできるプレゼンのトレーニングの方法があればお教えください。
たとえばライトニングトークという3分間スピーチのようなプレゼンを毎週の朝礼とかでやってもいいですね。自分の仕事のテーマとかでやるのは話し方のトレーニングにはなると思います。ライトニングトークは、実際に各企業や各部門で取り組まれているというところが多いですね。本当に話し方をうまくしたいのであれば、仕組みとしてフィードバックをつくっておくといいです。話しておしまいではなくて、そんな難しいフィードバックじゃなくてもいいので、たとえば紙にいくつか評価ポイントみたいのが書いてあって、〇×△でも、5段階でも何でもいいので、さっと書いて本人に渡すだけでいいと思います。本人がそれを見るというのが一番重要。「声が小さかった」「ここが面白かった」といったフィードバックがないと、本人は直しようがないので、簡単なメモとかで渡すっていうのをやり続けるのがいいと思います。
私がスピーチ研修とかの中で、よくつくっているフィードバックシートですと、「プレゼンス(信頼感)」「コンテンツ(内容)」「デリバリー(話し方)」という3つの観点から見ます。「プレゼンス(信頼感)」はきちんと自己紹介はできているか、身なりはちゃんとしているか、「コンテンツ(内容)」は面白かったとか興味が持てたとか、ちょっと具体性が足りなかったとか。「デリバリー(話し方)」は声がはっきり聞こえたか、早口になっていなかったか。身ぶり手ぶりは不自然じゃなかったかなど、そういう感じで大きく3つの観点を置いてフィードバックをします。
――ブレークダウンしてさらに細かい評価をつけると面白そうですね。
そうです。3つか4つずつという感じで点をつけてやれば、結構ゲーム感覚でもできます。たとえば「あー」「まあ」「ええっと」といった言葉のヒゲが出たら減点みたいなことやったら、最初みんなゼロ点、ゼロ点だったのが、だんだんポイントが取れるようになったというのはありましたね。やり続けるとすぐに出なくなります。
――今後、プレゼンや大きな舞台で話すことに限らず、会社でのコミュニケーションという点で最低限心がけておくとよいことはありますか。
プレゼンは上手く話せなくていいんですよ、ということです。流暢にとかカッコよくとか、それを狙う必要はまったないと言いたいですね。それを目指してしまうとどんどん苦手意識の渦に巻き込まれていってしまうので、上手く話す必要はありません。カッコよくなくても構わない、緊張しても構わないと、ハードルをまず下げるはすごく大切だと思うんですよね。
いわゆる上手いプレゼンは目指さないでくださいというのがひとつ。やったことのないことがいきなりできるということはありません。自転車に乗るようなものだと思って、まずは練習してくださいということです。そのうち転ばなくなります。転んでもいいし、いきなり乗って転んだからもうダメじゃなくて、最初はみんな転ぶものだと思ってやってもらうのがいいかと思います。

文・鈴木涼太
写真・大井成義

清水 久三子(しみず くみこ)株式会社アンド・クリエイト
大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、多くの新規事業戦略立案・展開プロジェクトをリード。大規模・長期間の変革を得意とし、高い評価を得た。「人が変わらなければ変革は成し遂げられない」との思いから、専門領域を徐々に人材育成分野に移し、人事・人材育成の戦略策定・制度設計・導入支援などのプロジェクトをリード。IBM在職中に3冊の書籍を出版。第1作は産休取得前、第2作は育児休業中、第3作は復職後に執筆。10刷を超えるベストセラーとなる。2013年に独立。執筆・講演を中心に活動を開始。講師としては、大前研一ビジネス・ブレークスルー、世界最大動画教育プラットフォームUdemyなどでコースを多数持つ他、日本能率協会、宣伝会議、SMBCコンサルティング、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、みずほ総合研究所など大手銀行系の研修提供会社で講師をつとめ、高い集客と満足度を得ている。

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